第六章 嵐の前の静けさ
この悲劇の物語の最後は皮肉か、運命か。
昼、朝からの晴れ晴れとした天気のおかげで、テラスで食事をとろうと沙織はまいかを誘おうとした。風も治ったこともあり、室内の食事は気が進まない。
「どう、テラスにでも行かない?」
「うーん、今日はいいや」
予想外の反応に沙織は頬を膨らませながら、わざとらしく
「いこーよー」
とまいかの腕を引っ張った。
「いたっ」
制服と肌の間に何か別なそれ以外の感触があった。懐かしい、感触でもあった。
「その傷、どうしたの」
昨日まではなかったはずの痛々しい傷が手首の手前から深々と入っていた。
「なんでもないし」
自傷したとすぐにわかったが、それをとがめることはしなかった。
「痛かったでしょ」
ただ、そういうと机の上に弁当を広げた。
「沙織の痛さを少しでも共感したくて」
悲しそうな表情で彼女は今日もコンビニ弁当をつまむ。
「気持ちだけで十分。はい、卵焼き」
テラスでの前の昼食同様、沙織はまいかの口に卵焼きを放り込んだ。
「私、翔君に嫉妬してたのかも。沙織のこと、昔のことからよく知っていて、どんな沙織でも守ろうって、思いが強く伝わってくる」
沙織の卵焼きをかみしめつつ、心の中を打ち明けた。
「じゃあ、私たちだけの思い出とか、作ったりしようよ。翔君にもできないようなこと」
――まいかがその考えに至るまでに時間はかからなかった。
痛みの共感、彼女に対する気持ち、自分だけが知る沙織。それを満たす解はただ一つだった。
「じゃあ、今日、うちにでも、どう?」
「うん、いくいく!」
まいかに移る沙織の笑顔は何よりもかけがえのないものだった。
――単調な着信音がテラスに響く。
「もしもし、健二か、どうした」
「昨日、まいかの様子がおかしくて。少し嫌な予感がする」
「兄であるお前が見抜けないんじゃしょうがないじゃないか」
「電話じゃなんだ。今日、俺んちに来れるか」
「わかった、今日、そっちに行く」




