第三章 告白と理解
一向に液面の下がらないコップを前に健二とまいかは対面していた。
「お兄ちゃんの友達ってあの二人って……」
健二は、静かにコーヒーを口に運ぶ。普段飲むコーヒーよりも、なぜかしょっぱく感じた。
「翔って、お兄ちゃんの友達だから、言いたくはないけど! なんなのよ。沙織を痛めつけて……。沙織を恐喝しているのかも。ねぇ、どうなのよ」
「いや、それは全くの誤解だ」
まいかとは目を合わせず遠くを見つめるようにして健二はコーヒーを一口飲む。
『事情は沙織にきいてほしいんだけど』という、翔の言葉はただの逃げに聞こえてきたが、そうではないことがようやく、わかった。しかし、沙織を守りたいという思いが消えたわけではなかった。
「沙織には明日、事情を聴いてみるよ。誤解なら、解かないとね。……お兄ちゃんの友達のことも、悪く言ってごめんね」
――『話がある』、その言葉を聞いた時から体中の傷が痛み始めた。
「リビングじゃダメ、なの?」
「ああ……。初めて会った日の事、覚えているかい」
「忘れるわけないでしょ」
沙織は悲し気に微笑む。
「なら、あの時言った言葉覚えているよね」
言葉だけではない。あのときの空気も、感情もすべて記憶にのこっている。あの日も、今日のように雨が降っていた。
「私は……」
言葉が詰まる。
「僕は、あの時から、卒業式の日の言葉を信じて、自分でもひどいと思いつつもここまでやってきたし、沙織もそれを望んで――くれたよね」
いつものやさしい表情はなかった。
「……わがままだけど、私は」
沙織は静かに言葉を綴る。
「私は、だれか、じゃなくて、あなたが。翔君がいい」
言ってしまった。沙織は、翔から目線を逸らした。
翔を見てなくても、彼が静かに笑っているように思えた。しかし、それは否定的な意味合いを含む。
「それは、できない」
「でも、それって。それってあんまりじゃない」
問いかけを残したまま、彼女は制服のボタンを一つ、また一つ、はずしていく。制服がはだけていく。柔らかな白色の下着の下に毒々しい痣が透けて見える。恥ずかしげもなく、制服と下着を脱ぐと、
「これでもそう思わないの?」
と、一つだけ、呟いた。翔が、何も言わないと、沙織は何事もなかったかのように、制服を着なおした。
「変なこと言ってごめんね。私、帰るね、そもそも私、直接健二君から誘われたわけでもなかったしね」
沙織は、静かにドアノブに手をかけると彼のことを見ることなく、玄関に向かった。




