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愛されたいと願うなら  作者: 雪川 白
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第一章 二人だけの

 朝の鋭い太陽の光に照らされて、沙織は輝かしい朝を迎える。整った部屋の片隅にあるクローゼットから制服を取り出し鏡に向かって着替えを始める。

 柔らかい肌に浮かぶ青い痣を、包み込むように真っ白いワイシャツを着衣し、首元に座るような赤いリボンを結び、ひざ丈のスカートを履く。

 眠たい目をこすりながら朝食を取り、狂ったように温かい六月の空の下に足元を照らすのであった。

 「よっ!」

 校門をくぐるや否や、後ろからどつかれる勢いで背中をたたかれた。

「朝から元気だなぁ。おはよ、まいか」

 ショートヘアに薄く焼けた肌。ズボンをはいていたら、一見男子にすら見えそうなたくましさが彼女にはあった。

「いやぁ、昨日、部活で先輩に褒められてさ。機嫌がいいのよ」

「なるほど。……結構遅くまで残ってたんだ?」

ふと目線を逸らした沙織に、まいかは首をかしげる。

「ずっとグラウンドの方だけど」

 二人は、入学してからの友達で、まいかは沙織の表情の豊かさと、自分にはない、暖かさに憧れを抱いていた。

「あっ、私、職員室に用事があるから。またね」

 まいかは教室につくとすぐに再び廊下に飛び出した。

「見られなくてよかった」

 一種に緊張が、ほどけ、沙織はついそんな言葉を口に出す。

 あの行為は確かに他の人から見ればひどくつらいようにも見える。

「おはよ」

 後ろから肩をたたかれ反射的に振り向く。

「あ、翔君。おはよー」

 そこには昨日と同じ、彼の顔があった。

「昨日は、『いつも』より激しかったけど、大丈夫?」

「うんっ、大丈夫!」

 何も心配することなど何一つない。

 朝のHRが終わり、午前の風が教室の中の彼らの集中力を少しずつ、抱き去っていく。時刻は十二時半。

「ん~! やっと終わったー」

 校内に響き渡るかのような高く大きな声でまいかがぐっと背伸びをする。

「お疲れ様。お昼、天気もいいし、テラスで食べよっか」

 二階の一番奥の扉からは広く開放的な空間が広がっており、生徒の交流の場として男女問わず利用されている。

「いいねー、最近、雨だったから教室だったし」

 まいかは、近くのコンビニで購入した弁当を、沙織は朝、母が手作りをしてくれた弁当を、それぞれ持って騒然とした教室を後にした。

 二階のテラスは教室の雰囲気とは打って変わって風の音色やベンチの木の暖かさが体の芯まで感じ取れる。

 二人のほかには幸か不幸か、だれもいなかった。

「私のお弁当の卵焼き、あげる」

 気分の張れるテラスでコンビニ弁当は悲しく思え、沙織は箸で直接まいかの口にそれを押し込んだ。

「んっ? あ、ありがと……あ、おいしい」

 まいかの困惑した表情が整い、くすっと、笑みがこぼれる。それに呼応するように沙織も

純白の笑顔があふれる。

――昨日のことなど、まるでなかったかのように。

「あ、そういえば、明日、数学の小テストじゃん」

「そういえば、そうだった」

 二人は変わらず、箸を進める。ふと、沙織が風に身震いする。

「今日の放課後――一緒に勉強しない?」

「えっ」

 表情が全身から消え去り、まいかの顔をまじまじと見つめていた。

 まいかも自分が何かおかしなことでも言ったかと、自己の発言を振り返る。

「あ、何か、用事でも入ってたのかな?」

 時が止まるような気がした。ここで、断るのは、失礼……。用事はない。それに、「あれ」をするためにどちらにせよ、学校には残る。用事があると言って、断ってあとあと学校に残っているのを見られるのは面倒だった。

まいかも裏切られたかと思って傷ついてしまう。

「ううん、大丈夫。私も、数学やばいし。……あ、もう一人、男子なんだけど、誘ってもいいかな?」

 いっそのこと、彼も誘ってしまおう。そうすれば、時間を合わせられる。

「いいよ。私も知ってる子? ていうか、男子と話しているんだね、ちょっと意外」

「知ってると思う。まあ、確かにその子としか男子では話したことないかもしれないかな」

 と、自傷気味に嗤う。

 ともあれ、何とかお互いの都合が合うようだ、と沙織は一安心をした。

「もうそろそろで、昼も終わるし、もどろっか」

「うん――あれ?」

 テラスの端で、見知っている顔が、スマートフォンを耳に当てて静かに、うなずいたりたまに笑ったりしている。

「知り合い? あ、さっき言っていた男子?」

 まいかの言葉が耳から抜け落ちる。硬直したからだ。恐怖ではない。むしろ、逆だ。

自分がいま、なんのために生きているのか、という問いに答えてくれる存在。これが愛情というのならば、沙織はまさに彼を愛し、彼に愛されている。

「――ねぇ?」

「あ、うん、そうそう。今、放課後大丈夫か、聞いてくるね」

 拡声器を通したような声にふと我に返った。沙織は翔のもとへ駆け寄った。すでに電話は終わっていた。

沙織は、まいかに「OK」のサインを送った。沙織に表情や行動に、まいかの中にあるなにかが抜け落ちる音がした。

それはもしかしたら、純情さが消えていく音なのかもしれない。

 放課後、沙織とまいかは翔より先に教室の一角でノートと教科書を広げている。教室には誰もおらず、グラウンドの方からは威勢の良い掛け声が覆いかぶさっている。

 二人は、そのせいか、集中力が途切れ、会話に花を咲かせいつのまにか恋の話になっていた。

「やっぱり、私は顔かな」

 と、まいかが言う。

「顔も大切、だよね」

 と、反論組に沙織が同意した。

「意味ありげな言い方しないでよぉ。もしや、もう手中の人がいるとか? 確かに、かわいいし、胸もあるし、頭もいいし」

 と、半ば強引に話を推し進める。

「まあ、好きな人はいるけど」

 と、言いかけ、

『その子としか男子では話したことないかもしれないかな』というお昼の発言を思い出した。

「ごめん、遅くなった」

 噂をすれば影が差す、とは少し違う場面かもしれないが、彼が腰を低くして教室に入ってきた。

「大丈夫、私らも今少し休憩していたところだし」

「そ、そうか。なんか悪いな。……友達?」

 静かに腰を下ろして、翔はまいかのほうをちら見する。

「翔君はあまり話したことはないか。同じクラスなんだけど、まいかだよ。

お昼もテラスでご飯食べてたんだよ」

「へぇ、翔君か。翔君は沙織とはいつからの付き合い?」

 と、ノートと教科書を一度教室の中へしまい、興味ありげな顔つきで、

彼を見つめた。

「知り合ったのは、小学生のころからだよ」

「あっ、そうなんだ」

 パキンと、心の骨格が崩れ落ちる音がした。自分の知らない沙織を、彼は知っている。

「そうなんだ」

 ポーカーフェイスを装いながら、心臓の鼓動が内部から響く。沙織は、自分といるよりも楽しそうに笑っている気がした。

「あ、あのさ」

「あっ! ご、ごめんね。お勉強しないと」

 純粋な沙織には、自分のどろどろとした気持ちがわからないのか。

わかってほしいという気持ちと、そのままの純白でいてほしいという気持ちが、途端に

全身を包んで縛り上げた。

「まいか、ごめん。少しお手洗いに」

 いつもなら、「トイレ」なのに。

「うん、いってらっしゃい」

 沙織が教室から出ると、一気に静まり返った。ただ、翔の右手が、ひたすらにペンを持って動いているのみだった。

「ねぇ?」

 わざとらしく甘ったるい声で翔の腿に手を置く。

「沙織って、君以外に男っ気がないんだけどさ、どう思う?」

「それって、沙織が僕を好きかどうかってことかい?」

 翔が、ペンを置くと、本当に静寂が訪れたように思えた。

それは決して、ロマンチックな光景とは言えない。

まいかは、静かに首を縦に振った。翔は微笑すると

「そうかもしれないね」

 といった。

「あんたは、どうなのよ」

 つい、口調を荒くしても

「まあ、そこそこかな」

 と、あいまいな返事を翔は返すのみだった。

 会話の途切れを狙ったかのように、沙織が入ってきた。彼女の、素朴な表情を見ていると、友達と思っているのがどうにも自分だけのように思えてしまう。

「ごめんね、沙織、部活に行かないと」

 逃げるように、教室を飛び出した。

「頑張って……ってもう行っちゃった」

 しばらく、お互いは言葉を発せず黙っていたが、しばらくするとしびれを切らしたように、沙織が口を開く。

「もう、行った?」

「ああ」

 と、翔が答える。

「お昼の電話、健二君?」

「そう。明日、あいつの家に行くつもり。沙織も、来る?」

「うん、いいよ。会うの久しぶりになるね」

 沙織の表情は少し寂しげにも、翔は感じられた。

 ふっと息を吹くより小さな風が会話の流れすら変えた。

「……ねぇ、そろそろ」

 甘い声に誘われるように、翔は静かに立ち上がる。

 沙織は静かに、目を閉じる。

――乾いた音が彼女の柔らかい肌色と響き合う。彼女の赤くなった腹部に拳大の「愛情」が付きあがる。

「遠慮、しなくていいから、もっと、殴って」

 沙織の腹部はもう、すでに赤く、いや紫がかっていた。

――あれから何分、何十分が経過した。

制服は乱れ切り、熱を帯びた胸元や、太ももが抵抗なく投げ出されている。

「しょ、翔……君」

 振り上げた腕と震えた腕とが絡み合う。

「沙織……」

 彼女の名前を呼んだのは、翔、ではなかった。

「な、なんで」

 震えた瞳同士がしばらくの間交差し合っている。

「まいか……どうして、部活行ったんじゃ」

「今、休憩中で、ノート、置いてきたの、思い出して、それで……。とにかく――ねぇ、何を、しているの」

 抑揚のないマイカの声が途切れ途切れでも、淡々とつづられた。

「見ないで。早く、部活に戻って。ね?」

 何かを隠すように、やさしく微笑んだ沙織は、言葉を言い切る前に、ゆっくりと

まいかから目線を逸らした。まいかは何も言い出せずに、速足でその場を後にした。

「翔君、ありがと」

 沙織は小刻みに震えている翔の手を静かに、そしてやさしく掴むと、自分の胸元まで

寄せた。

「翔くんは、私の望みを叶えてくれたんだよ。ありがとう」

 ドラマの最終回のようなさみし気でそして美しい夕日が雲の隙間に隠れかけていた。


少女が一人、汗ばんだ首筋に不気味な風を浴びてたどり着く。

「ただいま、お兄ちゃん」

「お帰り。そうそう、まいか。明日、俺の中学時代の友だちが遊びにくるから」

「珍しいね。わかった。学校帰りにお茶とか買っておくね」

「助かる」

 少女の楽し気な言葉の端々にはガラスのささるような痛みがあった。


翌日は何事もなく訪れる。一種の孤独感のようなそれは、昨日を置き去りにして

明日を向かせる。

「まいか、おはよう」

 昨日のあの瞳ではなく、沙織がまいかに向けたのはいつも通りの瞳だった。

昨日のあれは、悪夢だったと言いたげに沙織は笑う。

「今日、数学の小テストだね、はいこれ、昨日の」

 と、まだ夕日のにおいの残るノートと教科書を手渡される。

「あ、うん。えっと、あの、昨日の――」

「あ、翔君、おはよー!」

 昨日のことは聞くな、とでも暗示されているのだろうか、まいかはそう感じた。

しかし、まいかはあの交差し合った瞳が頭から離れずにいた。

沙織は、翔に、何をされていたかわからないがよくないことなのは確かだ。

親友を守らなくては。

 これを使命感と呼ぶなら彼女のそれは単純で、純白でそして白夜のようになれない

感覚だ。

そう思うと、この瞬間もあの沙織の笑顔も翔に向けられている表情すらいとおしく思えた。

「ごめんごめん。翔君と長話して。えっと、昨日の『あれ』気になる、よね」

「ううん、別に」

 彼女の口から、それも朝からつらい話をさせるわけにもいかない。

それに、自分の知らない、彼女を知れた。もし、知りたいと思う気持ちが恋というならそしてその気持ちが向いている相手を守りたいと思うなら、間違いなくまいかは沙織に恋をしている。そんな自分勝手で強い思いを同時に恋心、とやさしく形容される。

「今日の、小テスト、がんばろうね」

「うん、がんばろ」

 お互いに触れただけで崩れてしまいそうな脆い言葉を交わし合った。

 沙織との会話の後、まいかは昨日の一件から目を合わせようとしない翔のもとへ

近寄った。

「放課後、少し、いい? 時間は取らせないから」

 兄の友人のために、買い出しに行かなくてはいけない。それに気の弱そうな男だ。直ぐに、質問攻めに折れるだろうと踏み込んだのだ。

「昨日のことかい」

 抑揚のない声で、目を合わせずどこか遠くを見つめてつぶやいた。

「まあ。何か、事情があるんでしょ、わかってあげたいの。私、沙織の親友だから」

 彼は一つ大きなため息をつくと、ゆっくりとだがどこか騒がしく振り返り

「ありがとう、時間は用意するよ」

 と、言った。

 どんな事情があれ、数学の小テストは始まる。ここでは、複雑な人間関係も気遣いや、感情は無用の長物だ。それは、さみしくもうらやましい。

「はい、そこまで!」

 三十分間のテストが終わる。現実に舞戻される。テストが終わるやすぐに沙織はまいかのもとへ駆け寄ってきた。周囲のクラスメイトの中で沙織の声だけが鮮明に浮いて聞こえる。

「微妙だったよ……」

 と、自傷気味にまいかは笑った。

 昼頃から、雲行きが怪しくなり、ぽつりぽつりと雨粒が地面をたたきつけ始めた。昨日、沙織とまいかが使ったテラスも雨が入り込んで、当分は使えそうにない。

「雨、はやくやむといいね。傘、今日持ってきてないからさ」

 緩やかに時の進む、昼下がり。弁当を広げた沙織が感傷的につぶやいた。

「そうだね」

「今日、お弁当は?」

 卓上にあるのはただ、ペットボトル飲料のみだった。残りは半分を下回っており、中身も暖かくなっている。

「少し、食欲なくて」

 大丈夫? と、沙織は昨日のように卵焼きを箸でつまむ。

「ほんと、ごめん。今は、いいから。ありがと」

 少しつき放つような物言いで薄黒い六月の空をにらんだ。

「そっか。元気になったら、駅前の新作のアイスシュー食べに行こ?」

「うん、ありがと」

 放課後、ほとんどの生徒は部活動や図書室の自習スペースに向かっていた。教室には、まいかと翔の二人きりだった。

 雨音でかき消されそうな二人の姿は、教室の中の雨でずぶぬれになっていた。

「沙織には一階で待ってもらってる」

「あっそ。何か、用事でもあるの?」

「久々に友達と会うんだ」

 静かな教室、どこか寂しく排他的だった。

 昨日と同じく、教室の隅で隠れるように男女がいる。彼女の褐色の肌が空と相対的に真っ赤に翔には見えた。ごくり、と唾をのむ。

「私も、今日、用事があってさ。でも、今日、今、聞いておきたい。昨日、沙織に、何をしてたの」

 言葉より感情が先行しているのはまいか自身、よくわかっていることだった。それを隠すように、冷静を装うように、スカートを握る。

「事情は、沙織自身に聞いてほしい」

 一呼吸おいて、翔が話し始める。

「昨日は……いや、昨日まで。放課後は沙織を殴っていた」

 その言葉の重みに、思わず、両者とも冷や汗をかいた。

「そう、わかった」

 話が一段落した、そう思い、翔が立ち上がろうとしたとき、

「――でも」

 と、その言葉が空気を切り裂いた。

「もう、沙織には近づかないで。別に、弱みを握ってあなたをいじめるつもりはないから。そんなことをしたら、沙織は傷つくし、傷ついた沙織はもう、見たくない。あなたから、ゆっくりとでいいから、沙織から離れて。もし、近づくようなら、あんたを殺してでも、沙織は私が守る」

 不安と、覚悟の入り交ざった表情で、息を荒くしてまいかは翔をにらんだ。彼の表情はまるで六月の空のように彼女には感じられた。

 彼は何も言わずに教室から出ていこうとした。まいかとしては、彼の口から正確な反応が欲しかった。

「何か言ったらどうなの」

「ありがとう――」

 まるで、用意していたかのようにあっさりと、しなやかに、感謝の言葉を口に出しまいかの視界から消えた。

 

 階段をゆっくりと降りる彼の姿を沙織は傘とともに、迎えた。

「遅くなってごめん」

 大丈夫、と彼女は笑った。

「貸し出し用の傘、残ってたから借りてきたよ」

 と、六十五センチ丈のビニール傘を一本差しだす。

「あれ、一本だけ?」

「あ、うん。残りが一本だけで」

 不運か、幸運か。相合傘など、今日に限ってはしたくないと、翔は思った。

「わかった。とにかく、帰ろう」

 翔は、雨の中、傘を広げた。鈍い音がビニール傘をたたく。

『沙織には近づかないで』の言葉が今の現実と矛盾する。

 肩がぶつかりそうな二人の距離から傘を若干、沙織の方へ――左側へと――傾ける。右肩に冷たい雨粒がしみこむ。

「あっ、ありがと。濡れてない?」

「大丈夫」

 しばらくの間、二人の会話は雨音にかき消されていた。近い距離なのに、お互いの言葉が聞こえてこない。そんな状況が、駅前まで続いた。

 五分ほど歩くと、駅前に出る。雨を気にせずに歩けるドームが多くの道に整備され、人の賑わいを見せている。

「少し、手土産にでも何か、買っていこうか」

 翔の提案に沙織は賛同した」

「季節限定のアイスシュー、買っていこ」

 まいかとの会話で、自分が提案したものだった。よく考えてみれば、自分の食べたことのないものを人に勧めていた。この機会に試食もかねて食べてみようかと思っていた。

「この季節にはもってこいだな。買ってみよう」

 もんもんとした高い湿度の中、雑踏をかき分けてこうこうとした看板までたどり着く。新作の抹茶味を旧作のバニラ味のセットを一つ購入すると、駆け足気味で駅の改札を通り抜けた。


 思ったより時間を食ってしまったと、まいかは一つ大きなため息をついた。一向に、雨は止まない。

「ありがとうって、何よ」

 場違いとも思える言葉の疑問を教室に残したまま、彼女は職員室に立ち寄った。

「すいません、貸し出し用の傘ってまだ残ってますか?」

 職員室の奥から、あるよーと伸びた声が聞こえてきた。

 ようやく、傘を受け取り雨の中、傘を広げた。傘を少し左に傾けて駅前のスーパーへと歩いた。雨の中、沙織と同じ傘の下で笑い合いながら朝、言っていたアイスシューを食べる光景と重ねながら。



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