紅蓮の破壊者
『紅蓮の破壊者』
そう呼ばれた男がいた。名前は泪。
泪は紅蓮の炎を操り、全てを燃やし、世界を破壊した。
泪は己が運命を呪った。
――――誰か、俺を殺してくれ――――
泪はそう望む。紅蓮の破壊者は今日も世界を破壊していった。
赤の王。柳川瑠衣とその嫁のヒナゲシはとある世界に足を運んだ。
そこは一面荒地であった。
「今回はなにがあるかな?」
ヒナゲシが、隣にいる長身の瑠衣に問いかける。
「なにもないって事はねーだろうけどさ。いきなり目の前に苦難が現れたんだけど」
目の前には、髭をだらしなく伸ばし、髪がボサボサで、見るからにだらしない恰好した男がいた。
瑠衣はその風貌を見て呆れる。瑠衣のモデルみたいな恰好とは正反対だったからだ。
「俺を殺してくれ」
男は瑠衣にそう言う。
「断る」
瑠衣は即答する。
「何故だ?」
「無闇やたらに人を殺めるのは俺の主義に反する。俺はこれでも平和主義者なんだ」
「平和主義者? 破壊者が笑わせる。お前も俺と同じだろう。破壊の権化が」
「破壊者? 生憎、俺はそんな称号は持ってない。俺は赤の王で化物なだけだ」
「そうか、残念だ」
男は態度を豹変させ、炎を纏った。
「だったら、劫火にに焼かれて死ね」
「ちょい待て! お前なに言っているか、分かってんのか?」
瑠衣は焦って止めようとする。
「分かっている。俺は紅蓮の破壊者。名前は泪。俺を滅ぼさず見た者は全て焼き尽くす。お前も、連れも」
「おいおい」
瑠衣が動揺している内に、泪は炎を放つ。
「こら、待て!」
瑠衣は咄嗟にヒナゲシを庇い、炎を右手薬指にはめている指輪に吸収させた。
「効かないだと」
今度は泪が動揺する。
「効かないつーか、俺に炎は無効だよ。あんさ。いきなり会って、挨拶もろくにしないで、殺して欲しいだの、死ねだの。物騒だと思わないのか? この世界の俺がこんな野蛮な奴だと思うと悲しくなるんだけど?」
「お前が俺だと?」
「そうだ。俺の名前は柳川瑠衣。赤の王っての赤は炎を意味していて、俺も炎を操る。漢字こそ違うが、間違いなくお前と俺は同一人物だ」
瑠衣は面倒くさそうに説明する。
「そうか、だったら、余計、俺を殺してくれ、頼む」
「だから、断るって言っただろう。しつこいと女子に嫌われるぞ」
「女? そんな生物はこの世界にもう、殆どいない。人類は殆ど俺が燃やしたからな」
「衰退とか荒廃した世界ってか? お前が犯した罪はそれか、それで、殺して欲しいと。ってか、女子なら目の前にいるだろう。俺の嫁が」
ヒナゲシが丁寧にお辞儀をする。
「確かに女だ」
泪は目を丸くし、大きく見開くと、瑠衣の隙をついて。ヒナゲシを浚った。
「へ?」
今度は瑠衣は目を丸くする。
「って、おい!」
「柳川瑠衣と言ったか、返して欲しかったら、俺を殺せ」
泪は炎の翼を広げ、素早く飛び去った。
「おい、待て。ヒナゲシを返せ!!」
瑠衣は地団駄を踏み、悔しがった。
上空。
泪はヒナゲシを担いでいた。
「ちょっと、放して。降ろしなさいよ!」
ヒナゲシが暴れている。
「悪いな。危害を加えるつもりはない。大人しく我慢して欲しい」
泪は素直に謝る。
「うーん」
ヒナゲシは大人しくなった。
泪は荒野の真ん中にある藁葺きの自身の家まで飛んだ。
「俺の家だ。入るんだ」
「うん」
ヒナゲシは抵抗しないまま、中に入る。
「好きな所に座ってくれ」
埃まみれであまり、キレイではない家の中にあるボロい椅子を見つけ、その椅子の埃を払い座る。
「名前は?」
「柳川ヒナゲシ」
「そうか、ヒナゲシさん」
「ヒナゲシでいいよ」
「じゃあ、ヒナゲシ。悪いな巻き込んじまって」
「大丈夫。馴れてますから」
「終わったら、必ず解放するから、我慢して欲しい」
「終わったらって……」
「俺が死んだらだ」
「どうして、そんなに死にたいの?
「それは俺が破壊者だからだ。全てを破壊した。この世界は俺のせいで荒廃した。もう、これ以上、傷つける物なんか何もない。この世界は時期に滅ぶ。だが、俺は生き続けるだろう。それが、運命なのは分かっている。だが、独りで生きるのはゴメンだ」
「そうなんだ……」
ヒナゲシは悲しい顔をした。
「何故、そんな顔をする? 俺はお前を浚ったんだぞ。憎くはないのか?」
泪は困っていた。
「その気持ちは瑠衣が持っているから。私は思わないようにしている。ねえ、泪さん」
ヒナゲシが急に手を握る。泪は顔を赤くした。
「ど、どうした?」
「とりあえず、髭と髪を整えましょう」
ヒナゲシは自然に微笑んだ。
三十分後。
「うんうん。やっぱり、美男子だったか」
ヒナゲシは髭剃りで泪の髭を剃り、髪を束ねて笑った。
泪は瑠衣に似た顔付の男であった。
「あのー。これになんの意味が?」
「次は服ね。瑠衣の服でいいか」
首に提げた鍵を取り出し、出てきた鍵穴に鍵を差し扉を開け、中からトランクを出し、トランクから服を探す。
「うーん。どれにしようかな」
「話し、聞いてくれませんか?」
「聞いてるよ。聞いてないって事はないから」
「じゃあ、意味を教えて欲しいんだけど」
「意味ならあるよ。家の旦那の瑠衣はこれでも、人を見るから。さっきのより、こっちの方が、瑠衣は断然やる気になるよ」
「そうなのか?」
泪のテンションが上がる。
「多分ね」
(まあ、私を浚った段階で、半殺し確定なんだけどね)
ヒナゲシは嘘を付いた。
「あっ、これなんかいいかな。はい。これ着て」
「服もか?」
「当たり前でしょう。それで、これから私とデートするの。あの人に殺されたいなら、その位しなきゃ、瑠衣を本気にさせる事なんて無理よ」
「そ、そんなものか?」
「うん。瑠衣は筋金入りの私大好き人間だからね。ちなみに普段の瑠衣はヘタレているけど、やれば強いから、すぐにはくたばらないわよ」
「はあ、そうですか」
泪はヒナゲシに言われた通り、服を着替えた。
更に十分後。
「こ、こんなんでいいのか?」
着替えた服が着慣れていないので、照れながら、ヒナゲシに聞く。
「うん。いい感じ、素敵よ」
ヒナゲシが微笑む。
「悪くないな」
泪は照れ笑いをする。
「さて、デートに行きましょう」
「と、言われても、ここにはなにもないぞ」
「食事はどうしているの?」
「生き残った動物を食らっている」
「娯楽は?」
「そんなものはない」
「うーん。じゃあ、さっきみたいに飛んでよ。この世界を案内して。うん。それでいいよ」
「そんなんでいいのか?」
「他になにかあるの? 私、この世界に来たばかりだから、なにも知らないし」
「なにもないぞ」
「いいわよ。あっ、だったら、生き残った動物でも見に行こう」
「わ、分かった」
ヒナゲシに言われるがまま、家を出て、泪の力で再び空を飛んだ。
その頃、瑠衣はと言うと。
「あの野郎。殺す。絶対殺す!!」
タバコをくわえ、地団駄を踏んでいる。
「はあ……。まあ、そんな事してても、取り戻せないし、さて、どうするか」
瑠衣は荒野をあてもなく歩き出す。ヒナゲシの場所は分かっていた。
そりゃ分かる。
瑠衣の膨大なエネルギーをヒナゲシに供給し、ヒナゲシの身体を形成している。 ヒナゲシは瑠衣なしでは生きられない。
無尽蔵にあるエネルギー源を追跡すればいい。簡単なカラクリだ。
だから、焦ったりしていない。
ヒナゲシは死ぬ事はない。瑠衣自身が死なない限り。だが、瑠衣自身も死ねない。死ぬ事ができない。
人が当たり前に、唯一と言っていい程、平等に持っている呪縛を瑠衣の肉体は持っていない。だから、化物なのだ。
「さて、どうするかな。半殺しは確定だけど、だからって、殺生はいかんし」
荒野の真ん中で葛藤を繰り返していた。
「なんだかんだで、アイツもヒナゲシに丸め込まれそうだしな。ってか、それが、最大の問題だ」
ヒナゲシの性格はよく分かっている。分かった上での悩みだ。
泪もヒナゲシに操られているだろうし、色々やらされるだろう。
「きっと、俺の私服も取られているだろうしな。まあ、それは新しいの買えばいいけど」
ヒナゲシとはそう言う女子だった。
それを知った上で、ヒナゲシが好きだ。大好きだ。愛している。世界で一番に。
だから、取り戻したいし、奪った泪を半殺しにする所まで決定にした。
さて、そっからだ。
泪の本当の望みを叶えるべきか、破るべきか。勿論、後者を瑠衣は希望している。
そこまでの事をする理由が何処にもないからだ。
泪は無害とは言わないが、完全に世界の有害ではない。
瑠衣がやるのは有害認定をした者の排除だけ。
そんな無闇に人を殺めたら、今度は瑠衣が有害認定され、世界から排除される。
それだけは避けたかった。
不老不死の化物として生きていても、罪を犯していても、完全なる殺人鬼にはなりたくなかった。
鬼なんて言われるのは、真っ平御免である。
「はあ、アイツは大昔の俺と同じなだけなんだよな」
愛を知らないで生きた、殺人鬼であるかつての瑠衣を思い出す。
かつての瑠衣は一度世界から排除された。今があるのはヒナゲシのお陰だった。世界からの歓迎ではなく、一人の女性が歓迎しているのだ。
瑠衣が世界に必要とされいるかは分からないが、ヒナゲシは違う。
そのヒナゲシを心から愛しているから、世界は瑠衣を認めているように思えた。
そうでなければ、こんな化物に居場所なんかないのだ。
話しは戻すが、泪はまだ、世界が排除しようとしていない。瑠衣がやってきたのは、それを見極める為だった。
ヒナゲシはそれに付き添っているだけで、なにかを背負う必要はなかった。
「でも、勝手に首を突っ込むからな。まあ、そこが可愛いんだけどね」
荒野の真ん中で今度は一人で惚気る。
「ああ、そんな場合じゃなかった。とりあえず、捕まえに行くか」
瑠衣は煙草を灰も残らず処分し、炎の翼を広げ飛び去った。
その頃、ヒナゲシと泪は……。
「可愛い」
「そうか?」
ヒナゲシがウサギを撫でていた。
「可愛いよ」
「俺にとっちゃ、食い物なんだがな」
「焼いて食べるの?」
「そうだよ」
「じゃあ、私も食べたい」
「へっ? 今、可愛いって言ったよな?」
(これも女心って言うのか?)
泪には理解できなかった。
「言ったけど、お腹空いていたら別でしょう。可愛そうだけど、そうも言ってられない。それが、理だよ」
ヒナゲシはウサギを持ち上げた。
「はい。お願い」
「分かった」
泪はウサギを受け取り、炎を出して、丸焼きにした。
ヒナゲシは目を輝かせながら、それを見ている。
「楽しいか?」
「うん」
「なら、良かった」
「泪は?」
「悪くないかな」
「良かった」
ヒナゲシが笑う。
泪もつられて笑った。
「うん。いい笑顔」
「そうか?」
「うん。いい笑顔よ。私ね、そうやって自然と笑っている人、好きだよ」
「そんなものか?」
「そんなもん。ねえ、ウサギ焦げているよ」
「しまった」
泪はニヤニヤと笑っている内に、ウサギの耳が焦げた。
「ゴメン」
泪はナイフで切り落とす。
「いいよ。食べるよ。頂きます」
ヒナゲシは持っていたフォークで、ウサギの肉を刺し、口に入れた。
「うん。コリコリしていて美味しい」
「なあ、ヒナゲシの連れは、これで殺してくれるのか?」
泪は真剣な顔をする。
「うーん。多分、いい所まできていると思うよ」
「そうか、なあ、ヒナゲシの連れの瑠衣の事だけど、アイツは本当に強いのか?」
「うん。少なくとも、泪。貴方よりは強いよ」
「そうなのか!?」
「ええ、瑠衣って色んな世界を見ていて、色んな事しているからね。これが場数とか、修羅場とかって言うのかな?」
「なる程」
「でも、普段は凄い、ヘタレでね。私がいないと生きられない。ダメ人間なんだけどね」
「よく付き合えるな」
「それは見た目よ」
「見た目、ねえ……」
泪には理解できなかった。
「あと、お金に無頓着だけど、お金持ちだし。それって、私がしっかり管理すれば、好きなだけお金が使えるでしょう。性格はヘタレと浮気性以外は悪くない方だし」
(浮気性は致命的では?)
泪はここはあえて思うだけにした。
「女の子大好きは許容範囲だからね。彼は当たりだと思うの」
「そんなもんなのか?」
「そんなもん」
(女って、分からん)
謎が深まった。
「ご馳走様でした。あっ、そろそろかな。瑠衣。来るよ」
「殺す」
泪の背後から、急に殺気がした。
「いつの間に」
瑠衣は泪を背後から蹴った。
泪はやられるがまま、飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ゴホゴホ」
泪は大きく咳き込む。
「随分と、俺の嫁さんと遊んだな。何回話した? その分だけ、殴ってやるから、覚悟しろ」
「瑠衣、それはやり過ぎ」
ヒナゲシが流石に呆れる。
「だったら、一思いに殺してくれ」
「またそれか、本気なんだな」
「そうだ。ヒナゲシから聞いた。お前なら出来る。と」
「へー」
瑠衣は泪を指差す。
「あい、分かった。んじゃあ、お言葉に甘えて、ジャッジメント!」
瑠衣が叫ぶ。
すると、泪は胸を抑えた。
「なにをした?」
「なにを? 死にたい奴がなに、ほざいているんだ? まあ、教えてやるよ。お前の中にある魂、火の玉って言う奴か、その炎を操っているのさ。俺の能力はすべての炎を操る。例外はない」
瑠衣はメガネを外す。黒かった瞳は真っ赤に燃え上がった色をしていた。
「さて、どうやって殺してやろうか?」
(コイツ。想像以上にヤバい奴だ)
泪はヒナゲシを見る。
(何故、ヒナゲシはコイツの所にいる。脅迫されているのか? ヒナゲシだけでも護らないと)
泪は苦しみながら、急いでヒナゲシの所に向かい、手を引っ張った。
「アイツから逃げよう」
泪は更に炎を出し、地面に落とし、爆発させ、土煙を出し、周りの視界を悪くする。
「あの野郎」
瑠衣は泪から視線を離す。
すると泪の胸の痛みがなくなった。
「今だ」
泪はヒナゲシを連れ、飛び去った。
「アイツめ」
瑠衣の瞳が黒に戻る。
「一度ならず、二度もマジで殺す」
再び地団駄を踏んだ。
二人になった泪とヒナゲシ。
真剣な表情の泪とは違い、ヒナゲシは笑顔で泪を見ていた。
「ヒナゲシ」
「なに?」
「俺と一緒にいましょう。アイツは危険です。アイツの目は……」
「うん。そうかもしれないね。でも。それができないの」
「なぜ?」
「実はね。私、既に死んでいるの」
「なっ」
「でも、ここに確かに存在している。触れる事もできる。食事もできる。眠る事も勿論する。人間と変わらないんだけどね。そうやって存在できるのは、瑠衣がいるからなの。瑠衣の力が私を形成している」
「アイツが?」
「うん」
「アイツの能力は人、一人を存在させるエネルギーがあるのか?」
「そうなるね」
「それは神の領域だ」
「でも、あの人は神でもなければ、人ですらない。ただの化物。人間の命や心や思いや人間の身体を持った化物。その化物の心は膨大なエネルギーを一人の人間として、維持するにはあまりにも心が脆くて、そして弱かった。だから、私がいるの。あの人が最も愛した私が、エネルギーを支える為に。エネルギーを凝縮させ、肉体を作り出し、私の魂を埋め込んだ。それが今の私。だからね。あの人は私とどんなに離れても、私の居場所が分かるの」
「それって」
「ごめんなさい。瑠衣は初めから、場所を突き止めていたわ。だから、人質は無駄だったの」
「マジで死ね」
泪の目の前に瑠衣が現れ、回し蹴りが飛んできて、泪にヒットした。
泪は頭を強く打ち、脳震盪を起こす。
「お前、いい加減にしろ。何回、拉致れば気が済む。マジで殺してやるよ」
瑠衣は指を鳴らし、殺気立つ。
その目は殺意で満ち溢れていた。
(そうだ。これでいいんだ。俺はようやく死ねる。はずだ……)
瑠衣は倒れた泪の頭を踏む。
「まったく、面倒かけさせやがって」
(痛い。これが痛みか。怖い……死ぬのが怖い)
瑠衣が更に強く踏むと、泪の意識が無くなった。
その後、泪の身体が燃え上がった。
「なんだ、コイツ」
瑠衣は驚き、そして、ヒナゲシを泪から遠ざけた。
「コイツが、この世界の破壊者の姿か。無意識下に起こるのか、泪と表裏一体ってとこか?」
炎の塊となったそれは素早く瑠衣を襲う。
「ねえ、お願い泪を救って、あの人は悪い人じゃないから」
「んなの、当たり前だ!」
瑠衣はヒナゲシを抱き締める。
そのすぐ後、瑠衣は意思なき、炎の塊に真っ直ぐ向かった。
それから、一時間後。
泪は目を覚ます。
「俺は生きているのか?」
気が付けば、泪の家の前にいた。
「生きているとよ。バカ」
瑠衣がのん気に煙草を吸っている。
「そうか、って、何故殺さない」
「殺したらヒナゲシに嫌われて口も利いてくれないからだ」
「それだけか?」
「それだけだ」
瑠衣ははっきり言った。
ここまで言われると、どうやら本当のようだ。
「所でヒナゲシは?」
「お前の部屋を片付けてる。俺等は邪魔だから、外で待機だと。まっ、タバコが吸えるから、そっちの方が都合いいけど」
「なあ、頼むから殺して欲しい」
「何故死に急ぐ?」
「今更聞いてどうする。この世界が俺のせいでこうなったからだ」
「だから? 泣いていた奴が怖くない訳ねーのに、覚悟もねーのに言う事は一人前だな」
「なあ、頼む」
「だからこそ断る。お前はこの世界を守れ、罪も償え」
「分かっているだろう。俺はいつ力が暴走するか分からないんだぞ」
「だからなんだ? ほれ、コイツでも首にぶら提げてろ」
ただのひもに赤い石が付けられた、質素なペンダントを渡した。
「お前の力なんざ。俺の前では無力って、言っただろう? それがその証拠だ。その首輪があれば、お前の意思に反した無駄な力は吸収される」
「首輪って」
もっと別の言い方をして欲しい物だ。
「お前が付けるんだ。首輪で十分だ。女性にやるならもっと可愛い物を作ったよ」
「男で悪かったな! しかし、これはなんだ?」
「元々は俺の魂の結晶体だよ。だから、渡したくないんだ。気持ち悪いからな」
「それは、確かに同意見だ。しかし、無限に吸収できるのか?」
「可能だ。吸収した炎は俺のエネルギーになるからな」
「問題ないのか?」
「問題ないからできるんだよ。何度も言わせるな俺は化物。人間の身体と魂を持ったタダのエネルギー体だ」
「そうか」
「他に質問は?」
「大丈夫だ」
「だったら、次は俺からだ。お前、ヒナゲシとどんな話しをした? ハグとかキスとかやってないよな? やったら殺す。やってなくても殺す!」
「やってねーよ! どんだけ嫉妬深いんだあんた!!」
「ヒナゲシだからだ。なんか文句あるか。あんな上物いないだろう」
「確かにいないな。死んだって聞いた。あの性格は生前からか?」
「そうだ。俺は身体を形成させているだけで、性格まではいじれないよ。あの性格は昔からだ」
「何処で見つけた」
「何処だっていいだろう。馴れ初めを聞くなバカ」
「俺も欲しい」
「この世界で見つけろ。バカ」
「バカ、バカ言うな。バカって言う方がバカなんだ」
「んだともういっぺん言ってみろ。今度こそ半殺しにしてやる!」
「やってみろ、今度は本気でやる!」
「二人ともこれから喧嘩するの?」
ヒナゲシが笑顔で出てきた。
しかし、殺気立っている。
「いえ、しません」
二人は声を揃え、笑顔で答えた。
「そう、なら良かった」
「それよか、掃除終わったのか?」
「終わったから出てきたの。泪、お待たせ」
「はい、ありがとうございます!」
泪のテンションが上がったのは言うまでもない。
(ヒナゲシが消滅したらまず、お前を潰すからな)
瑠衣は面白くない顔をしていた。
泪の部屋の中。
ヒナゲシはご飯の支度をしていた。
と、言っても、簡単な物だ。
今、野菜を炒めている。
「しかし、ヒナゲシは本当に出来る女だ。すっかりキレイになってる」
「俺の女だからな。まっ、大雑把な所がまた可愛いんだけどな」
部屋の隅に埃がまだ残っていた。
「料理は美味いのか?」
「勿論」
(後片付けは嫌いだけど)
他人の家で後で、手伝いをさせられると思うと頭が痛い。
「本当にいい女だ。なあ、ヒナゲシは本当にお前の事が好きなのか?」
「決まっているだろう。俺、カッコいいもん」
(ミーハーだからな。俺には劣る、イケメンは全般好きだけど)
考えてみたら弱点だらけの女性である。
(まあ、そこが大好きなんだけどな)
弱点も瑠衣にとっては好きな所なのだ。
「簡単だけど、出来たよ」
ヒナゲシが満面の笑みで、野菜炒めを持ってきた。
それから一時間後。
瑠衣とヒナゲシの旅立つ時間になった。
「泪。頑張ってね」
「ああ、だが、これからどうすればいい?」
「んなもん、テメーで考えろよ!」
「花でも植えたら? はい。種」
ヒナゲシが種の入ったビニール袋を渡した。
「昔々、それは大悪党だった男は、更生する為に、畑を耕しました」
「ヒナゲシ。それは、大昔の俺だよな?」
瑠衣が反応する。
「そうだよ。他にいないでしょう?」
「なる程分かったやってみる」
泪は種を受け取る。
「いつか花が咲いたら、又、遊びに来て欲しい」
「勿論」
「その時は、二人で遊ぼう」
「うん。いいよ」
「お前、本当に殺されたいんだな」
「今、ヒナゲシがいいって、言ったぞ」
「うっ」
「いいじゃない。ご褒美よ。だって泪カッコいいもん。ヘタレな誰かさんとは違って」
「ああ、もう、一思いに消滅したい! ヒナゲシ先行く」
瑠衣は肩を落とし、扉を開け、扉の先、新たな世界に向かった。
「アイツ、それで大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ヘタレは今に始まった事じゃないし」
「そ、そうか」
「そうよ。泪はそんな男にならないでね」
「分かった。ありがとう。ヒナゲシ。そして、ゴメン。無理矢理誘拐して」
泪が謝る。
「いいのよ。楽しかったし、こっちも瑠衣が無茶苦茶してごめんなさい」
ヒナゲシも謝った。
「だから、これは相子だね。気にしないでね。じゃっ、私もそろそろ行くね」
「ああ、さよなら」
泪は手を振った。
「うん。じゃあね」
ヒナゲシは扉の先の別の世界に旅立った。
終わり。