96
翌朝、見慣れないやたら高い天井が視界に入ってすぐ、あ、そうだったと思った。
里桜はお金持ちの家柄だと薄々感じてはいたけど、正直ここまでだと思わなかった。
里桜のおばあちゃんの別荘───いや、別荘というよりペンションだろうな。ペンションは、とても広くて綺麗で。
おまけに別館には露天風呂まであった。お風呂上がりの夕食は部屋でコース料理まで出てくるし。ここに無償で泊めてもらって本当に大丈夫なんだろうかと不安になったぐらいだ。
「おはよう律花ちゃん」
いつのまにか隣で寝ていた里桜が起きて、天使みたいな笑顔を見せてくる。寝起きなのに、なんなのその可愛さは。朝から眩しいんだけど。
「おはよ・・・」
「あれー?なんか疲れてない?律花ちゃんもしかしてダブルベッドじゃ寝付けなかった?」
「いや、大丈夫。気にしないで。」
キョトンと首をかしげる里桜に、冷静にそう答え私たちは朝食をいただきに、部屋を出た。
広い階段を降りて一階に向かいながら、この申し訳ない気持ちを晴らすためにも駄目元で里桜にお願いしてみることにした。
「ねぇ里桜、私も金澤さんみたいにここのお手伝いしたいんだけど」
「あ、そうだバイトなんだけどこの辺で何か出来ないか探してもらったんだけど人手足りてるみたい。残念だけど、今回は二人で楽しく過ごそ!」
「え、でも・・・」
タダでこのまま遊んで帰るわけには────と言い淀んでいると里桜が言った。
「この近くにプールもあるし、海もあるの。今年は律花ちゃんと行けるから楽しみにしてたんだぁ」
「う、」
この笑顔に弱いんだよね、私。
────いや、ちょっと待て。水着とか着たくないんだけど!?
「でも私、水着とか持ってきてな「大丈夫、レンタル水着も置いてあるから」
「そ、そうですか・・・」
「今日はプール行って、夜は花火やろうね律花ちゃん!」
「あ、うん・・・・」
ささやかな抵抗をしてみたものの、里桜によってあっさりかき消された。
ああ・・・行くことになってしまった。
(・・・・・ま、いっか。水の中に入れば誰にも見られないし。幸い知り合いも、里桜しかいないし!)
せっかくの夏休みだから楽しまなきゃ損だ!と気持ちを改めていた私の後ろから、弾むような声がした。
「なになに、プール行くの?」
振り帰ると金澤さんが笑顔で立っていた。朝食の準備をしてくれていたらしくカフェエプロンを身に付けている。
「おはようございます」
「おはよう。ねぇ俺もプール一緒に行ってもいい?日中はシフト入ってないから暇なんだ」
「「え」」
まさかの申し出に、私と里桜は顔を見合わせる。
「二人とも可愛いんだから男が放っておかないよ、心配だから保護者として、さ」
「あら、いいんじゃない?里桜と律花ちゃんが変な人に目をつけられても大変だし、金澤くんならその点安心だもの」
ひょいと横から現れた里桜のおばあちゃんが、そう賛同したのは意外だった。
だって、金澤さんこそ────信用ならないというか。
雰囲気が、チャラいんだもんこの人。
うーん。
・・・・だけど、まぁ。
里桜のおばあちゃんがそう言うなら大丈夫なのかもしれないと私は思い直すことにした。
それに、確かに男の人が一緒なら里桜がナンパされることもないのかも。
里桜、いつもナンパされるからなぁ。まぁ、男の気持ちも分かるけど────里桜、その辺のモデルより全然可愛いし。
「じゃあ里桜たちをよろしくね金澤くん。」
「はい、任せてください」
「ちょっとおばあちゃん!」
ボーっとそんなことを考えている間に、おばあちゃんと金澤さんで話は進められていて。
「えぇ?本当に良いんですか金澤さん?」
「うん。じゃあロビーに10時半集合でいい?俺、車出すから」
「ありがとうございます」
里桜と金澤さんが親しげに話しているのを、どこか他人事のように眺めていた。