95@頼視点
「彼女?!」
「そう。だから羽虎、しばらく来なくていいから」
「おまっ、最低か!」
なぜか裏切者のような目で俺を見る羽虎は、夏休みに入ってから初めて夜に俺の家に上がりこんできていた。律花のことで頭が一杯で、そういえば羽虎にしばらく会っていなかったなと今日気が付いたくらいだ。
「でも、その“彼女”は今ごろ里桜と旅行だろ?お前も毎日朝から部活だし。付き合ってる感ゼロだよな」
「うるさい。」
(気にしているところを、コイツ。)
『だから、付き合おう?』
────俺のなかば強引な告白に律花ちゃんは頷いてくれたものの、あれからどこかよそよそしくて。
結局、まともに夏休みの予定も聞けないまま、夏休みに入っていた。
(もう、会いたいんだけど───)
律花ちゃんの顔を見られないと気分が上がらない。今日の試合は、なんとか勝ったけど───何気なく見上げた観客席に律花がいなくて・・・・やっぱり沈んだ。
(ダメだなぁ、俺は────弱くて)
「で、頼は愛しの彼女と夏休み出掛けないのかよ?」
からかうようにニヤニヤしながら痛いところを突いてくる羽虎に俺は手元のついスマホに視線を落とした。
「来週末の夏祭りは、一緒に行きたいと思ってるけど・・・・」
「“けど”ってそれただの願望?まだ誘ってないのか?」
「誘おうと、したけど言いそびれたんだよ・・・」
「てか、予定それしかないとか寂しくね?」
違う別に夏祭りだけじゃない。
これからなんだよ。
律花が別荘から帰ってきたら、部活さえ終われば毎日だって会えるんだ。
────と、反論しようとして止めた。
コイツの言葉にいちいちムキになるのも馬鹿らしいからな。
もっと、余裕を持たなくては。
「よし、四人で遊ぼうぜ」
何を思ったのか羽虎が突然、笑顔でそんな提案をしてきた。
そして数秒後にあぁ、とコイツの魂胆に気付いた。
「分かった分かった、一回くらい考えとく」
「一回かよ」
「当たり前だろ?」
貴重な夏休み。しかも、部活で全く遊べないのになんで羽虎のために二人きりの時間を邪魔されなくちゃならないんだ。自分で笹野に連絡しろよ。
「でもまぁ、良かったなやっと念願叶って」
「あぁ。お前も頑張れよ」
俺が何気なくそう言うと、羽虎はつらそうに笑った。