93@頼視点
違うと言って欲しかった。
俺を優先して欲しかった。
「──笹野と別荘行く日と試合の日かぶってる?」
だけど、やっぱりというか──律花は笹野との約束が先で。
「ごめん。実はそのことなんだけど、」
「分かってるよ、言わなくても」
こんなことでやきもちを妬いてる心の狭い自分が情けなくて俺は律花ちゃんの目を見れない。
「頼、」
せっかく律花ちゃんが、必死にこの空気を変えようとしてくれてるのに。
女々しい自分を変えようとここまで頑張って来たのに。
格好いい、律花の理想の男になろうと努力してきたのに。
───結局俺は、何も変わってない。
「もしかして、拗ねてんの?」
「拗ねてない。妬やいてんの。」
「や、」
絶句する律花に、俺は冷たく問い掛ける。
「それで、バイトもすんの?」
「え。」
どうして知ってるの?という顔をした律花を見て、確信に変わる。
(するんだ、やっぱり・・・・)
「もっと律花と過ごしたいのに」
「え?」
弾かれるように顔を上げた律花と目が合う。
「・・・・あ、声に出てた」
(もう、いいや。もう、疲れた。)
隣にいられたら、それでいいと思ってた。
律花が笑ってくれるならそれでいいと思ってた。
好きだと言ってくれて、それだけで満たされた。
────そう、思ってたのに。
ささやかな願いはいつしか当たり前になって。
もっと、もっとと貪欲な気持ちが自分を支配して。
「な、何言ってんの!?」
「何って、心の嘆き?」
抑え込んでいた気持ちはいつからか綻んで。
こうやって律花の髪に触れると、落ち着く。
好きだという思いばかりが増してゆく。
だけど。
俺が触れると律花は涙目になる。
好きだと言ってくれて嬉しかったのは──俺だけだったと思い知らされる。
「ねぇ律花────本当に付き合おう、俺達?」
口を突いて出てきてしまったその言葉は、自分でも驚くものだった。
(ああ、やってしまった・・・・・)
こんなこと、言うつもりなかったのに。
言ったところで、断られるに決まってるのに。
激しく後悔する俺の顔を、潤んだ瞳の律花がじっと見つめる。
「なんで、突然そんな爆弾投げてくんの?」
「・・・爆弾て」
怒り口調でそう言ったかと思えば、すぐに返事をかえされた。
「無理。私、頼とは付き合えない。」
「どうして?好きって言ってくれたのはやっぱり」
「嘘じゃない!」
必死にそう言ったあと、律花は目を伏せる。
そして弱々しい声で呟いた。
「でも、・・・・怖い」
「何が?俺は何も変わらないのに、俺のことが怖いの?」
俺が安心させようとそう言うと、思わずといった感じで律花が笑った。
「変わらない?」
────まるで、可笑しいみたいに。
そして、寂しそうにポツリと言った。
「頼は、変わったよ・・・・」
「どこが。」
律花ちゃんへの気持ちは何も変わってないのになんでそんなこと言うんだと責めるような口調になってしまった。
ムキになってしまって、全く余裕がない。
律花は少し頬を赤らめて、目を伏せたまま小さく掠れた声言った。
「頼は・・・・・格好良くなりすぎだよ」
「────え?」
「傍にいたいけど私でいいのかとか不安になるし、私ばっかり好きになってる気がして不安はなくならないし、近くにいるとドキドキして苦しいし、心臓がもたない!──だから彼女なんて私は無理だって言ってんのっ!」
(なんだそれ、可愛すぎか。)
思わず抱き締めたくなったけど、ここは我慢。
律花の警戒心を解かなくてはと、なんとか踏みとどまって俺は笑って答えた。
「一緒だよ」
「え?」
「俺も、律花が好きすぎて不安になる。だから皆に言って回りたいぐらいなんだよ、“律花ちゃんは俺の彼女だ”って。」
「頼・・・・」
俺の言葉に、やっと律花に笑顔が戻った。
「今、“律花ちゃん”て言った。」
「なんだよ、」
つい本人の前で昔と同じ呼び方をしてしまった恥ずかしさから口を尖らせると、律花ちゃんは嬉しそうに言った。
「変わってないね」
「だから言ったろ?変わってないって」
だから付き合おう?と再度確認すると、律花はいつになくおとなしくコクンと一度だけ頷いてくれた。