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教室で一人悶々と考えていたけれど、私は体育館へ足を運ぶことにした。先に約束したのは里桜だったしここは頼に正直に謝ろうと決めたからだ。
それに、試合を観に行けない代わりと言ったら頼は怒るかもしれないけれど、正直一度頼のバスケしてるところを観てみたかったのもある。
(場違い・・・だよね、でも。)
だんだん弱気になって、体育館へと続く長廊下で足を止めた。
ダンダンとボールのつく音が聴こえてくる。部活の音。
もうずっと、自分には無かった音だ。
「あれ?青島じゃん。」
ふいに後ろから声をかけられて肩がビクッと揺れる。振り返るとなにやらニヤついている大西くんがそこにいた。
「もしかして、彼氏見にきたのかぁ?」
頼のことをあえて“彼氏”とか言う、大西くんみたいな男子は嫌いだ。
「・・・別に、まだ終わらないのかなと思っただけだし」
「呼ぼうか?」
「いい!呼ばなくていい!」
こっそり覗くことも叶わず、とりあえず大西くんから逃げたくて回れ右をして教室に戻ろうとした、その時。
「律花?」
「・・・・・頼」
(──最悪だ。)
頼にバレた。体育館からなぜか気付いて出てきた頼が、大西くんを睨む。
「大西、便所長すぎ。部長が早くしろって」
「はいはい。今日はずっとご機嫌斜めだなー」
苦笑いを浮かべた大西くんがそうぼやきながら、頼の横をすり抜け体育館へと戻っていった。その様子を見届けたあとこちらに視線を戻すと頼が不機嫌気味に言った。
「律花、なにしに来たの?」
「なにしにって───」
言えるはずない。
頼のバスケしてるところを観に来ただなんて。
そしてなんだか部活のジャージ姿が、いつもと雰囲気違ってかっこ良くて直視できない。
汗とか、なんかフェロモン出ちゃってるけど!?
「───頼、まだかなって」
「あと少しで終わるから、教室で待ってて」
「え?なんで・・・・」
「いいから、教室にいて。」
「わかった・・・・」
念を押されて、私は訳もわからず頷く。
ちらりと表情を窺って見たけど顔を背けたままだから、分からないままだ。
里桜に言われたことで、凹んでるのか?
「じゃあ、俺も戻るから」
「あ、うん。頑張って」
そんな私の返しも聞こえてないみたいに、すぐに体育館へと戻っていく頼。
その様子を追うように体育館の中を覗いてみた。
(あ・・・・・)
体育館の半分のコートは女子のバスケ部が使っていて。
女子たちの視線の先は、頼に向けられていた。
(どんだけモテるんだ、あいつは。)
小学生の時なんて、私より背も低くて可愛かったのに。
────あんなに、背も伸びて。
・・・・・男らしくなって。
あんなふうに女子から熱視線浴びてる頼を見ると心に靄がかかる。確かに頼は格好良くなった、────けど。
私は・・・・その度に辛くなる。
隣にいるのが私なんかじゃ駄目だって、思い知らされるんだ。