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「律花、ごめん」
放課後、帰ったと思っていた里桜に教室に戻ってくるなり謝られて面食らった。
「さっきちょっと赤下苛めすぎちゃった。」
「え?」
「だって夏休みも律花ちゃん独り占めしようとするからさぁ。で、ちょっとムカついて酷いこと言っちゃったの。」
“独り占め”されたつもりもないんだけど、と思いながらも私はその先が気になって訊ねた。
「何言ったのよ?」
「んんー?───正論?」
里桜が意味深に笑う。
(──なにそれ、ますます分からないわ。)
「だからあとで慰めてあげてね」
「なっ、」
「“彼女”でしょ?よろしくね」
じゃあまた明日!と笑顔で手を振ると、里桜はさっさと帰っていった。
何を言ったんだ・・・・里桜のやつ。
「・・・・・・」
“独り占め”ってそれ、試合のこと?
夏休みの頼との約束なんて、来週のそれしかないけどな・・・。
「・・・・あ。」
つい、間抜けな声がこぼれた。
来週の土曜って、里桜と別荘に行く日じゃん。
(どうしよう・・・・予定かぶってるのに気付いてなかった!)
さっきの里桜の話からしたら、頼の機嫌は良いと思えない。
これ、今言ったら────頼、怒る・・・・よね?
頼の部活を待つ間、私の頭の中は来週の土曜のことで一杯だった。