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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
9/140

9 @頼視点

「んで?帰りもまた(● ●)逃げられて一人で帰ってきた、って?」

「・・・そう」


その日の夜、勝手に押し掛けてきた友達を部屋へあげた。相手は幼稚園からの腐れ縁、加藤(かとう)羽虎(はとら)。俺の家には今、単身赴任で親がいない。―――単身赴任(● ● ● ●)のはずなのに、両親がいない。その理由(わけ)は、母親が父のところに頻繁に行っているから。

・・・仲が良すぎなのも、困ったものだ。


そんな訳で、羽虎は毎晩のように暇潰しに、こうして用もなくやってくる。



「相変わらずだな、お前のヘタレぶりは」


今日の出来事をかいつまんで話すと羽虎がそう言って笑った。


「身長ばっかじゃねーか、成長してんの。」

「うるさいよ」

言い返す言葉が他に思い付かず、顔を背けてそう呟く。そんな俺に、羽虎がまた笑った。



「で、里桜に変な虫ついてねーよな?」


急に真面目な表情(かお)になったと思ったら笹野の話題になる。


(結局お前は、それを聞きに来たのな・・・)


まぁ、そうだよな。

俺の話なんて、いつも興味なさそうだしな。


そう思いながら、素っ気なく答える。


「ああ。―――今のところは。」

「おい、なんだそれ。お前ちゃんとそこ阻止しろよ?」

やる気出せよ!心配になるだろうが!と、なぜか胸ぐらを掴まれる。本当にこいつは、なんて自分勝手なやつなんだ。


「知らないよ。同じ高校入れなかったくせに、偉そうに言うなよ馬鹿。」

「うっせーな、勉強嫌いなんだよ仕方ねーだろ」


悪びれもなく開き直る(さま)が、なんとも清々しい。いっそ、感心する。


「んで?どーすんの、これから」

突然俺の話に戻されて、現実に戻る。


「どうするって…」



『どうしてこんな、嫌がらせばっかりするの?』


律花ちゃんが、つらそうな表情(かお)で、そう言ったのが脳裏をよぎる。


(やばい、思い出すと泣きそう…)

涙腺がゆるみかけて、俺は誤魔化すように顔を伏せた。


『・・・待っててなんて、頼んでないし。もう待ち伏せとかしないで。…迷惑。』

―――――今朝の言葉も。


『赤下くん。離して。』

―――――放課後の言葉も。


(全部、律花ちゃんの…本当の気持ち、だ。)


彼女に言われた言葉が、回想される度に胸にドスドスと突き刺さる。


『ほら、そうやって。いつも、俺を拒絶する。』

―――あんなこと、言うつもりなかったのに。


『だってそれは…』

あの言葉の続きを考えただけで、心臓が掴まれたみたいに息が苦しい。あの言葉の続きを言わなかったのは、律花ちゃんの優しさだと思う。


「ああ、俺なんであんなこと言っちゃったんだろう…」

堪らなくなってベッドに突っ伏すと、ついそう嘆いてしまった。


そんな俺に、またそれか、と羽虎が呆れた顔になる。

「何度後悔したって仕方ねーだろ、過去は変えれねーんだから」

「・・・・」


小学校の時の自分が情けなくて…ずっと許せなかった。

弱くて周りの目ばかり気にして…挙げ句大切な存在を傷付けて、失なった。


――――だから、変わろうと思ったのに。


(結局俺は今日、あの時と同じように律花ちゃんを…――――。)


あの日、律花ちゃんは俺を責めなかった。

あの場でなくても、二人でいる時にでも責めてくれたら…俺は弁解もできたのに。

そんな機会(チャンス)は二度となかった。

―――律花ちゃんは、黙って俺から離れていった。


ぶつけてこない分、自分の中に溜め込む彼女。


『男子にはめちゃめちゃ無愛想だったぞ』


同じ中学だったクラスの木下に聞いた話で確信した。律花ちゃんは、多分あの日のことをずっと引きずってる。だから男子には心を開かずにいたんだと。


――――特別な男子(ひと)(田端くん)、以外には。


本当に、田端くんが好きなのか…付き合っているのかもしれない。手遅れだったのかもしれない。



「何のために同じ高校行くことにしたんだよ、お前は」


弱気になっていた俺に羽虎が言った。ゆっくり顔を上げると羽虎が、笑って言った。


「やり遂げろよ、ヘタレなりにさ。」


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