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「夏休み、どうするー?」
「プール行こうよ、プール」
「良いねぇ!」
そんな弾んだ会話が、廊下から聞こえてきた。
放課後、帰っていく人達の中、私は一人で教室に残っていた。窓際に近い席だから、外を眺めながらぼんやりと考える。
(プール・・・・とか、全然行ってないなぁ。)
中学時代の夏休み、イベントらしきものは全部スルーしていた。
町内の夏祭りも、プールも、物心ついた頃から頼と一緒に行っていたから。どこに行っても、頼を思い出してしまうから。
─────それが堪らなくて。
(今年は行きたいかも・・・・花火大会とか───)
そんなことを考えていたら、勝手に浴衣姿の頼が頭に浮かんだ。
(む、ムリムリムリムリ!!)
なに考えてんのよ!
だいたい頼、部活あるし。
夏休みだって、忙しいだろうし。
だから・・・全然会わないだろうし。
─────“彼女”でも、ないし。
自分でツッコんでいて、凹んでしまった。
(バカか、私は───・・・)
「青島さん?」
そんな声が背後からして思わず、軽く肩が揺れた。振り返ると、カバンを手にした田端くんがこちらを向いて立っていた。
「あ・・・・」
ついさっきまで自分の考えていたことが見透かされた気がして、恥ずかしくてつい目をそらしてしまった。そんな挙動不審な私に、田端くんが言った。
「“彼氏”待ってるの?」
「え、や、・・・そ、そうなのかも?」
自分は今、頼のなんなのか分からなくて。
というか、そんな聞き方されると思っていなくて。
私は困ってつい、明らかに不自然な返事をしてしまった。
すると、田端くんが苦々しい笑顔を浮かべ、静かに言った。
「・・・そっか。」
この間田端くんの前で号泣してしまったことも思い出して、ますます気まずくなり、空気が重く感じてきた。
「た、田端くん忘れ物かなにか?」
「そう。今日日直だったんだけど、そういえば窓閉め忘れてたかなとか思って」
「そっか、さすがだね!」
真面目で、責任感強くて────そういうところ、田端くんらしくてなんだか笑ってしまった。
「あそうだ。早くしないとバイトにも遅れるから、じゃあ」
「え、田端くんバイトしてるんだ?」
意外だったからつい、そう聞き返してしまった。私の言葉に、帰ろうとしていた田端くんが振り返る。
「あ、うん。今日初日なんだ」
「そっか、頑張ってね」
「・・・・ありがとう、じゃあ」
「うん、バイバイ」
帰っていく田端くんを見送りながら、私は考えていた。
(────バイト、かぁ。)
そういえば、頼って10月誕生日、だったよな。
私も、夏休みにバイト探しても、いいかもしれない。