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私の高校では、テスト前一週間は部活が休みになるらしい。
だから頼の所属するバスケ部も、今日から休みになっていた。
(噂って、一体どこから発生するんだろう。)
放課後、頬杖をつきながらぼんやりそんなことを考えていた。
────私と頼が付き合ってるという噂がその日のうちに知れ渡っていた。
誰かに確認されたわけでもないし、自ら公言したわけでもない。
(まぁ・・・・付き合ってることになってはいるけどさ)
付き合ってるという噂が広まってから、他のクラスや二年生など上級生の女子の“なんであの子が?”という視線を痛いほど感じるようになった。
(頼が、ここまでモテると思わなかった・・・)
「ごめん、待たせて」
声を弾ませて、走って教室に入ってきた張本人を、私は八つ当たりするように睨んだ。だけど頼は私と目が合うなり嬉しそうに目を細める。
(なんでヘラっと笑えるんだか。)
そう毒づきたくても、頼の整った笑顔にやられて、すでに顔が赤くなってしまっている私は、頬を隠すように素っ気なくそっぽを向く。
(カッコいいんだよ、ばか。)
「なに怒ってんの?」
「別に怒ってないし。頼こそ、なにニヤニヤしてんの?」
「え、してねーし」
いやいや、頬が緩みきってるでしょ。
そんな幸せ全開な笑顔、見せてこないでよ。
・・・・まともに見れないから。
そんな私の気持ちを知ってか、頼が鞄を手に顔を覗き込んでくる。
「で?律花、まだ帰らねーの?」
「え、頼が放課後テスト勉強するって言ったんじゃん」
「うん。するよ?家で」
「えっ」
(い!家?!学校じゃないんだ?!)
「俺の家でもいいし、律花の家でもいいよ?」
動揺した私を愉しそうに見つめて、頼が聞いてくる。
「───律花はどっちがいい?」
(なんでいつも、そんな余裕なのよ・・・)
私ばっかり余裕がなくて、緊張してばっかりで。
意識しまくりじゃないか。
(なんか、悔しい・・・)
頼にも、ドキドキして欲しい。
そう考えるのは、私が負けず嫌いだからなのか?
「ど、どっちでもいいけど?」
「じゃあ!今日は俺の家で数学な」
「・・・分かった」
かなり思い切って答えたのに、頼はすごく普通のトーンでそう返してきた。
(頼は、意識とか・・・・しないのか?)
そう思ったら、ガッカリじゃないけどなんだか淋しく感じた。
(って、手!!!)
そんな気持ちは頼に繋がれた手に、全て持っていかれた。
「頼、ちょっと──・・・」
「ん?」
離して、と言おうとした私に、頼は小声で“付き合ってるふりしないとバレるよ”と囁いた。反射的に耳を抑えると、頼が満足気に口角を上げた。
(なっ、なんてやつ!!)
耳元で囁くとか、それ反則技だから!
てか、絶対わざとやってるだろ!!
そう言いたいのをグッと堪えて、少し前を歩く頼の手に引かれながら私は教室を出たのだった。