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「は?」
クラス委員の朝の仕事である、職員室にいつもの御用聞きに向かう途中の廊下で、私は思わず足を止めた。隣を歩いていた頼が続けて足を止め、繰り返すように小さな声で言った。
「だから“付き合ってるってことにしとこうぜ”って言ってんの」
うん。それは聞いた。
聞いたけど。
「───なんで?」
「俺さ・・・毎回告白されて断るの、しんどいんだよね」
わざとらしくため息をついて、頼が言った。
(なんだ、モテるアピールか。)
「律花が協力してくれたら、助かるんだよなぁ。」
「!!!」
その言い方はズルい。
それに───そんなふうに顔寄せられたら、跳ねた心臓が暴れたままで何も考えられなくなるじゃんか。
「・・・・バレても知らないからね?」
心の中を誤魔化すように、目をそらして小さな声で呟く。
そんな可愛いげのない私の言葉に、頼が目を細めて笑った。
「ありがとう、律花」
やめて、心臓がキュゥーって苦しい・・・。
そんな優しい温かい目で、こっち見ないで。
どうしよう・・・。
頼が、かっこよく見えてしまう・・・。
うぅ・・っ、しっかりしろ律花!
この笑顔に流されてばかりじゃ、ダメだ!
そう思い直してみたけど、恥ずかしくて頼を直視出来ない。
だからそっぽを向いたまま腕組みしてふんぞり返ってみせたのは、私の精一杯の強がり。
「ただし!ノートの貸し分なんだから、テスト終わるまでだから!」
「なんだ、やっぱそうなんのか」
寂しそうに苦笑いする頼に少し胸が痛んだけど、私は平然を装う。
「あ、当たり前でしょ。」
「じゃあ、さ────」
その代わり、と言わんばかりに頼が提案した。
「笹野にも、誰にも言うなよ?これがフリだってこと。」
「え、うん。」
「バラしたら、無期限にするからな」
「ん?・・・うん」
あれ?
なんか結局頼の言う通りになってるけど─────なんかこれって・・・・?