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「その表情は、話せたんだね!?」
朝のホームルームが終わると里桜が私の席にやってきて、自分のことのように喜んだ。
「うん、ありがとね。里桜のおかげだよ」
「やだ、律花ちゃんたら大袈裟!そんなことないよ!」
「ううん、里桜が言ってくれなかったら、私また逃げてた」
そして、またずっと辛い気持ちに蓋をしていかなければならなかった。
自分ばかりが、被害者みたいにして。
「律花、」
名前を呼ばれて顔を上げると、頼が私の席にやってきた。
頼は驚くほど機嫌良くて、いまだかつて見たことないくらい明るい表情だ。
「来週から、放課後一緒にテスト勉やらね?」
「うん。あ、でも古典のノートとかは貸さないからね?」
古典は午後イチなこともあって、かなりの確率で居眠りしてたから。
途中ヘビみたいな落書きになってたりしてるんだよね。
焦ってそう先手を打った私に、なぜか頼がニヤリと笑った。
「貸さないんじゃなくて、貸せないんだろ?」
「え」
「寝てたもんなー」
「ちょ、何見てんのよ…っ」
「見たくて見た訳じゃないし。常に視界に入ってたんだよ、律花の後頭部が。」
そ、そうだった!
頼はこないだまでずっと、私の後ろに居たんだ!
今さらそんなことに気がついて、決まりが悪くなる。
そんな私を、生暖かい目で見つめる里桜と、愉しそうな頼。
(何よ、ニヤニヤしないでよ二人とも!)
無言で睨んでみたけど、まるで効果がない。
「貸そうか?古典のノート?」
「・・・・い、要らない。里桜に借りるし」
頼が小馬鹿にしたようにそう言うから、私はつい意地をはってしまった。すると里桜が慌ててストップをかける。
「え、私?やめてよー、付き合いたての二人の邪魔したくないから巻き込まないでー。」
え?“付き合いたて”?
「里桜、あのね私たち別に付き合って────」
「あー、律花っ!」
説明しようとしたら、頼がわざとらしくそれを遮った。
「何よ、」
「ほら、ノート貸してやるから」
古典のノートを目の前に差し出して、頼が言った。私は少し面食らいながらも、ありがたくそれを受け取ろうとした。
「あ、ありがと・・・・」
だけど受け取ろうとしたその瞬間、素早くノートを上に上げ、顔を上げた私の耳元で頼が言った。
「その代わり、一つ貸しな」
「え」
嫌な予感しかしないんだけど・・・。