表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【3】友達以上、恋人未満
80/140

77

「律花?」


田端くんと別れてすぐの廊下で。

私に気が付いた頼が、こちらに向かって歩いてくる。


(――――どうしよう…)

頭の中が、まだ整理できてない。

西野さんの言葉で、私の心はひどく揺らいでいて。

何が本当で、何が嘘なのか。

混乱していてそれすらもー――判別できない。


なのに。


(顔…見られない…)


うつ向いて教室に向かう私を、頼が追いかけてきて隣に並ぶ。


「ごめん、遅くなって。」

「・・・・」


言葉を発したら、とんでもないことを口走ってしまいそうで。

私は黙って首を左右に振ることしか出来なかった。


「――――律花?なんだよ、怒ってる?」


頼が笑って顔を覗き込んできて、ほんの一瞬目があってしまった。


(やば…)


「どうかした?なんか…―――」

案の定、目元を指差した頼が、心配そうに眉を寄せる。


「―――…別に?」

私は笑って見せた。

私の複雑な胸中が、頼にバレたくなくて必死だった。

嫉妬。困惑。勘違い。思い上がり。虚しさ。

何がどれだけ渦巻いているのか、自分でもよく分かっていなくて。

だから、何でもないふりをして、この場を乗りきろうとした。


―――だけど、頼はそれを許してくれなかった。


「……クラスの女子に、なんか言われた?」

さっきより、深刻そうに眉を潜めて頼が私を見つめる。


「え?…ああ。大丈夫、気にしてないから」


そう答えれたのは、半分本当だったから。

クラスの女子に言われたことも、忘れていたぐらいだった。だから頼にそう聞かれて、笑ってしまったんだ。その質問がすごく的外れに感じて。


「“大丈夫”って何、」

頼が私の肩をぐいっと引くと、真剣な目をして言った。

「律花、本当のこと言えよ」


(本当のこと?)


自分が今怒っているのか、笑っているのか。

それさえ分からない。

――――頼が、可笑しなこと言うから。


(本当のこと言ってないのは、(そっち)でしょ…!?)


私のこと、好きとか言って。

――――“彼女”とか、居たくせに。


(…嘘つき。頼の、嘘つき!)


心の中でそう叫んでた。

だけど口にはしなかったのは、―――そう言ってしまったら、私の負けな気がしたから。


頼への想いが一方通行だと認めなくちゃいけない気がして。また、あの時みたいな苦い想いをしなくちゃいけない気がして。


だから必死に感情を殺した。


「…私、あの時のことはもう気にしてないから」

「は?急にどした…?」


きょとんとする頼に、私は続ける。


「だから…―――もう、私に構わなくていいから」

「律花?なんでまたそんなこと…」

「嫌なんだって…っ!」


畳み掛けて言わないと。

勢いがないと。

こんなこと、言えない。


「同情されるの、すっごく不愉快だって分かんない?」

「“同情”…?何言ってんだよ…」


静かな教室に、私の声がいやと言うほど響く。


こんなこと、言いたかったんじゃないのに。

本当は、気持ちを伝えようと思ってたのに。


(今だって、こんなに好きで…―――)


涙が込み上げてくるのを、絶対見られたくなくて。

教室から逃げ出そうとした私の腕を頼がつかんだ。


「律花待っー―――」

「もう頼に振り回されるのはたくさんっ」


振り払うのと同時にそう叫んでた。

涙が頬を伝って落ちる。


(最悪、だ…)


「これ以上、苦しめないでよ…」


そう小さくこぼした声が、静かに床に落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ