8
「手、痛い。離して。」
廊下を、頼に腕を引かれるかたちで歩く私。
「―――…“嫌だ”って言ったら?」
睨むように、頼が私を見つめる。私はその目に怯まず、言った。
「赤下くん。離して。」
先に目をそらした頼は、明らかに傷付いた横顔だった。
私はその表情を…―ー知ってる。
(“頼”…だ。)
一瞬重なった、小学校の頃の頼の姿。
「・・・名前で呼んでくれたら離す」
立ち止まった頼がポツリと言った。
(なんで…そんな表情するの?)
「――――“頼”。…離して。」
私の声が、頼の表情のせいでさっきより弱々しくなる。
(私が…悪いみたいに…―――)
「どうしてこんな、嫌がらせばっかりするの?」
私のこと、嫌いなら…ほっといて欲しいのに。
関わらなきゃいいのに。
今の頼は、私には全く分からない。
「…ムカつくから。」
喉から絞り出すみたいに、頼が低い声で言った。
「は?ムカついてるのは…」
こっちなんだけど…と続けるはずの言葉は、頼の言葉に遮られた。
「律花が、“無かったことにする”から」
「…は?」
「“あの日”、なんで俺があんなこと言ったのか…とか、律花は一度も聞かなかった。」
「・・・その話、しないで」
やめて。
聞きたくない。
思い出したくない。
―――…怖い。
「ほら、そうやって。いつも、俺を拒絶する。」
「だってそれは…」
“頼が先に拒絶したからでしょ?”
そう、言いたかった。だけど、言えなかった。
(――…また、だ。)
狡い。
私が悪いみたいに。
私が頼を傷付けたみたいに。
(そんな表情しないでよ…ばか。)