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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【3】友達以上、恋人未満
79/140

76

『あれ?頼から聞いてない?』


彼女の勝ち誇ったような表情(かお)が、頭から離れない。


『私、頼と付き合ってたの、中学の時。 』


――彼女の言葉が、頭から離れない。

西野さんが立ち去ったあとも、私は一人その場に座っていた。


『同情してるだけなの頼は、貴女に』


(嘘、でしょ―――…そんなの…)


『だから、律花ちゃんからも頼に言ってくれない?“私はもう、気にしてないから”って。』


(信じられない…)


――――だけど、それが本当だったら…?


嘘だと思いたい。

私に言ってくれた、頼の言葉を信じたい。


(だけど……頼は、優しいから―――…)


私のことをずっと好きだったというのは、ただの“勘違い”で、あの時のことを“気にしてた”だけだったら――――。


そう考えたら怖くなって、頼と向き合おうとしていた気持ちはみるみる萎んで、消えていた。


(――――()える、わけない…)


スカートの裾を無意識にぎゅっと掴んで、項垂れていたその時だった。


「・・・青島さん?」


そんな声がして顔を上げると、田端くんが心配そうに私を見下ろしていた。


「顔色悪いけど、どうかした?」

「―――――何でも…っぅ」


何でもない、って言いたかったのに…――――勝手に嗚咽が漏れてしまった。



“何でもない”だなんて言えるほど、私の想いは軽いものではなかったから。


だって私はずっと……頼のこと忘れられなかった。

高校(ここ)で再会して、今の頼を知って。

知れば知るほど、惹かれていった。

頼も、同じ気持ちだって知って―――嬉しかった。

付き合うのは恥ずかしくて…まだ、向き合えなかったけど、嬉しかったのに。


(だけどそれも全部、勘違いだった……?)


私を腕の中に大切そうに抱き締めてくれたのも。


『それでも隣に、居てもいい?』


――そう、言ってくれたのも。


「………うっ」


顔を覆って必死に涙を止めようとすればするほど、想いばかりが溢れて止まらなくて。


(…どうしよう…止まんない)

目の前にいる田端くんを困らせてしまうことが申し訳なくて。


「ごめん、も、放っておいて大丈…」

顔を覆いながら言いかけた“大丈夫だから”の言葉の先は、田端くんの腕の中で消えた。


「…どうして?」


田端くんの喉の奥から出すような苦しそうな声に、私は思わず顔を上げた。

その瞬間、我に返ったように“あ、ごめん”と小さく言い、体を離す。



「赤下くんといるのが辛いなら、俺は遠慮しないから」


隣に座った田端くんがうつ向いたまま、感情を隠すように静かに言った。


「…え…?」

「青島さんが泣くのは、赤下くんのせいだろ?」

「・・・・・」


頼のせい?


それは―――違う。


「頼は……何も、悪くない」


そう言うのが、今の私の精一杯だった。


「青島さん・・・」

田端くんが、私に悲しそうな表情(かお)で呟いた。


「ごめん、変なとこ見せちゃって。もう、帰らなきゃ」

涙を拭って教室に戻りかけた私に、田端くんの声が追いかけてきた。


「いつでも、話なら聞くから」


田端くんの優しい言葉に、また涙腺が緩みかけたけど、私は笑顔をつくって振り返る。


「ありがとう。でも、大丈夫だよ」


田端くんは私の笑顔を、複雑な表情で見てたけど。

それ以上、何も言わなかった。


そして教室に戻ろうと廊下を歩き出したところで、会ってしまった。


「律花?」


――――まだ、心の準備が出来てなかったのに。


「・・・頼」


頼が、部活から戻ってきてしまった…―――。


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