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『好きでごめん』
苦しそうに、切なそうに。
あの時のーー頼の言葉が・・・ずっと耳に残ってる。
(私はいつも、頼を傷付けてしまうーーー…。)
さっき・・・咄嗟に払い除けてしまった私の左手。
何気なくそこに視線を落とすと、思わずため息が漏れた。
「今日も赤下、待ってるのー?」
放課後、テスト勉強しようと机の上に教科書を出していると里桜がひょこっと顔を出した。
「…うん」
教科書に視線を落としたまま、私はさっきの頼の言動を思い出していた。
(頼、怒ってたーーー…)
そりゃそうだよ。
私、頼のこと拒絶するみたいに手をーーー。
ーーー―思い出す度に自己嫌悪に陥る。
それに、待ってるって言ったときもなんだか迷惑そうだった。
――本当は、待たれるの迷惑だったのかもしれない。頼は優しいから、はっきり断れなかったのかも…。
「・・・・」
考えれば考えるほど気持ちが落ち込んでいく。
「律花、私今日はピアノだから一緒に待っててあげられないけど、大丈夫?」
「あ、うん。ーーー大丈夫…」
力なく笑う私に、里桜が本当ー?と疑うような素振りで顔を覗き込んでくる。
そして、思い出したように笑って言った。
「てか!さっきの日本史の授業、赤下の嫉妬凄かったねぇ」
(え?)
「嫉妬・・・?」
「ほら、大西くんと律花が席くっ付けるのが嫌で、自分の教科書貸そうとしてたんでしょ?」
里桜の言葉を頭の中で繰り返して、時間差で、私はようやく理解した。
(え…っ、あれはそういうこと…だったわけ?!)
そんな教科書を私は、頼に突っ返して…ーーーーおまけに手を払い除けた・・・・。
(私、頼になんてひどいことーーーー…っ)
思わず頭を抱えた私に、里桜が笑顔で言った。
「愛されてるね、律花。」
「はっ?」
目を丸くした私に、里桜が手をヒラヒラと降って言った。
「ふふ。じゃあまた明日、学校でね」
「え、朝一緒に行けないの?」
引き留めるようにそう声をかけると、振り返った里桜が微笑んで言った。
「さぁ?それは律花ちゃんの頑張り次第だよー」
(え?)
「報告、待ってるね♪」
「え、ちょっと里桜…っ!?」
“報告”って…―――と聞く前に、里桜は教室から出ていってしまった。
でも、聞かなくても、私が頼を待ってる理由に里桜は、すでに気づいていたようだった。
(さすが、里桜はなんでもお見通しか…―――)
不安だった気持ちが、少しだけ軽くなった。
『愛されてる』って、本当・・・?
怒ってると思っていたけど、嫉妬してただけ?
私のこと、嫌いになった訳じゃなかった?
(信じて、いいんだよね?)
頼のことを考えるとーーーー胸がギュッと締め付けられる。
苦しいけど、それ以上に幸せ。
好きな人を想うのって、それだけで――――こんなに幸せになれるんだ…。
(頼に、伝えよう・・・)
ずっと、逃げてきたけどーーーーちゃんと向き合うって決めたんだから。
付き合うとか、付き合わないとか、そういうのは後から考えるとして。
(私は、頼のことが好きだって――――…。)
もうあんなことなんて言わせたくないから。
嫉妬なんて必要ないんだよって、思わせたいから。
悲しげな表情なんて、させたくないから。
だから。
(あぁーっ!ダメだ、全然集中できない!!)
部活が終わるのを待っている間中、頼のことばかりを考えてしまい、ドキドキしてテスト勉強どころじゃなかった。
気分転換に図書室にでも行こうかと、教室を出たところで、私は前から歩いてきた女子に声をかけられた。
「あ、律花ちゃん!」
「ぇ…」
(だ、誰・・・・?)
私は足を止めて、彼女をじっと見つめた。




