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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【3】友達以上、恋人未満
75/140

72

『――――律花、最近つらいこととか…ない?』


あの時既に頼は、気付いていたのかもしれない。


――クラスの女子の視線や態度も。

――私がなんて言われてるのかも。



「青島、悪いんだけど教科書見せてくれねぇ?」


午後一の授業が始まる五分前。

席につき頬杖をついてチラチラと斜め前の席を盗み見ていると、横から声をかけられた。

驚いて思わずビクッと肩が揺れる。


(見られてた…?)


「・・・忘れたの?」

決まりが悪くて、少し怪訝な顔をして大西くんを見る。


「そ!昨日テスト勉強しようかと珍しく持って帰ったらうっかりな。あ、もう先生には言ってあるから」

頼の背中を見つめていたことをからかわれるかと思って身構えていたけど、大西くんが人懐こい笑顔で話し掛けてきたから、内心安堵していた。

「ちゃっかりしてる…」

ついそう呟いてしまった。なぜなら彼が、何も返事をしてないのに席をくっつけてきたから。


「はは。そうか?」

嫌味を言ったんだけど、彼はなぜか嬉しそうに笑っている。


「――――大西くんて、悩みとかなさそうだよね」

「あぁ!確かにないかもな。」

「・・・しかもポジティブだよね」

「そんな褒めんなよー」

「や、褒めてないけど…」


大西くんとのテンションの差に若干引きながら話していると、突然上から何かがガンッと降ってきた。


(びっ…くりした…)


私と大西くんの間を狙ったかのように落ちてきたそれは、今から使う日本史の分厚い教科書だった。

ビックリして顔を上げると、不機嫌極まりない顔をした頼が目の前に立っていた。


「あっぶねぇだろうが!!上からそんなもん落とすな!」

「そうだよ、びっくりするでしょ?」

心臓を押さえながら、大西くんが声をあげる。彼の発言は私の気持ちそのものだったから、私も同意しながら仏頂面の頼を見上げた。

だけど大西くんの剣幕に怯むことなく―――いやむしろ、突き刺すような冷たい視線で頼は大西くんを見下ろしていた。そして、静かに口を開いた。


「大西、教科書(ソレ)貸してやる」

「え?そしたら赤下が困るだろ」

「いーよ、俺は無くても別に困らないから」

「――――あ!その方(● ● ●)が困らないってことか。」


頼の云わんとしたことを察したかのように、大西くんはニヤリと笑うと、頼の教科書を受け取る。


(いやいや、なんでよ?)


二人のやり取りが、私には理解出来なかった。


どう考えてもおかしいでしょう、自分も同じ授業受けるのに教科書貸すのは。

それに貸してしまったらペナルティを受けるのが頼になってしまう。


「ちょっと待って。頼、なに考えてんのよ?」


大西くんが受け取った頼の教科書を、ひょいと横から取り上げて、頼に「ほら、」と差し出す。だけど頼は受け取ってくれなかった。


「もぉ…頼。ほら、教科書…」

受け取らない頼の代わりに仕方なく席を立って斜め前の頼の机に教科書を置く。

するとなぜか、教科書を置いたその手を取られた。


(ちょっ………!?)


「律花こそ、机くっ付けて何やってんだよ…」

「は?何って、」


驚きのあまり、目をパチクリさせてしまった。

くっ付けてきたのは大西くんの方だし、というか“教科書を忘れた”っていう理由でこうしてるわけで。

それ以外の理由も目的も、ないのは明白だと思う―――んだけど。


(て…そんなことより顔近いし!心臓に悪い!!)


「手、放してよっ」

パンッと乾いた音がしてすぐ、しまったと思った。恥ずかしさのあまり、頼の手を思いきり振り払ってしまったのだ。


「あ…。頼、――――ごめ「はい、そこ。私語は慎みなさい、始めますよ」


謝ろうとしたちょうどその時、始業のチャイムが鳴り、すでに教壇に立っていた日本史の川合先生が私達の席を指差して注意を飛ばしてくる。


「ああ、それと青島さん。大西くんが教科書忘れたそうなので見せてあげてください」

「…はい」

「それから赤下くんは、前を向いて座りなさい。」

「・・・」

先生の言葉に、頼は黙って自分の席に着いた。


(――――ごめん・・・)


そんな頼を目で追いながら、私は心の中で謝る。罪悪感で、胸が苦しい。


今のは…絶対頼を傷付けた。

恥ずかしいからって、あんな拒絶するみたいに。


(あー…もう。なんでいつもこうなっちゃうんだろう…)


・・・繋がれた手が、嫌だったわけじゃない。

心臓がまだ煩いのだって、頼のことを意識しすぎてるからで 。

その答えだって、頭ではもう分かってる。


あとはこの気持ちを、少しずつ伝えていけたらと思ってはいるんだ、―――向き合おうとしてはいるんだけど。


『彼女でもないのに、自分ばっかりずるいと思わない?』

(ああ、本当に――――狡いよな、私って)


神奈川さんの言葉が、再度胸を突き刺す。


(逃げて…ばかりだ…)




「青島、」

黒板に書かれていく文字を無心でノートに写していたところに、大西くんがこそっと顔を寄せて話し掛けてきた。


「さっきは悪かったな。」


“さっき”というのは、昼休みのこと…だろうか?と思いながら私も声をひそめる。


「別に……気にしてないから、」


それより、もうこの話は触れないで欲しい。頼むから。


「俺、お前らのこと暖かい目で見守ってるから」

「・・・・」

「頑張れよ!」

無言の私に、大西くんが親指を立て爽やかにそう言ってきたところで、川合先生がチョークを持った手でこちらを指差した。


「青島さん、大西くん、静かに!」

「はい、すみません…」


先生に謝りながら、大西くんとはもう関わりたくないと心底思ったのだった。

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