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(な、なんで次から次へと……クラスメイトが!?)
「大西・・・」
声のした背後を振り返った神奈川さんが思わずといった感じで呟いた。
「梨々香、なにしてんだよ?」
「大西には関係ないでしょ」
二人のやりとりを聞いてると、どうやら以前からの知り合いのようだ。
「俺に関係なくても、困ってるやついたら放っておけないだろ?俺の性格上。」
なぜか爽やかな笑顔で、大西くんが私と神奈川さんの間に割って入りながらそう言った。
(ええと……もしかしてそれって私のこと?…だよな…)
「なにそれ、ウッザッ」
「行こ、梨々香…」
恐らく漫画のヒーロー的なことをしたかったんだろう大西くんの言動のおかげなのか、神奈川さんとその友達は戦意喪失したようにそそくさと居なくなった。
「青島、大丈夫?」
「・・・あ、うん。まぁ…」
(なんだろう、コレジャナイ感・・・。)
だけど一応助けてくれたんだよなと思い直して、親指を立ててどや顔をしている大西くんに「ありがとう」とだけお礼を言っておく。
「ごめんな、梨々香のやつ嫉妬深くて。あいつ、イケメン好きだからさ。中学ん時も結構あんな感じでーーー」
「大西クン、中学一緒なんだ?」
大西くんの話を遮るように、私の隣にいた里桜が横からそう訊ねると、少し頬を赤くする大西くん。
……どうやら、美人に弱いらしい。
「そ、腐れ縁かな。でも、根は悪いヤツじゃねぇんだ」
「えぇー?そうは見えなかったけどなぁ」
「笹野さん、言うねぇ」
里桜が可愛い顔を傾げてそう毒を吐くと、大西くんが苦笑した。そして私に視線を戻すと、大西くんが言った。
「ところで青島。ーーー以前から思ってたけど赤下と付き合わない訳ってなんかあんの?」
「え。」
(本当……何なんだろうこのひと。)
悪気はないのだろうがまた唐突に痛いところを突かれて、ピシリと固まる私の代わりに里桜が口を開いた。
「大西クン、そんなの聞いてどうするのー?」
(里桜…、口調はやんわりだけど目が笑ってないから怖いよ…)
「いや、別にどうもしないけどさ。今のままじゃ赤下のこと狙ってる女子に妬まれ続けるだけだし、いっそ付き合えばいいのにって思って」
「・・・・・」
(分かってるよ……そんなこと…)
頼は私に、“好きだ”と告ってくれた。
だけど、“付き合って”とは言われていない。
それがどういうことか。
頼の気持ちも。
周囲の反応も。
ーーーーー本当は分かってる。
(…私が動かないと、ダメなんだってことは。)
だけどその事すら言葉に出来ず、情けなさから唇をグッと噛み締める。
追い詰められて逃げ場がないような感覚。
それはまるで―――息苦しさを味わっているみたいに。
(ダメだ。このままじゃ―――…)
「まぁ、付き合えばって言う点は私も同感だけどね」
里桜の声にハッと我に返ると、彼女は大西くんに微笑んで、「でも、ね」と付け加えているところだった。
「周りがとやかくいう問題じゃないからそっとしておいてくれないかな?もし邪魔したら私が許さないからネ?」
そう言う里桜の顔はニッコリ微笑んでいるはずなのに…ーー背筋が凍るほどの圧力を感じたのだった。