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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【3】友達以上、恋人未満
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「ーーーーで!その後“いや、大丈夫”、って言ったんだよ(アイツ)!」



天気も良いし、今日のお昼は中庭で食べようということになった。


「あーあ、心配して損したぁ」


ベンチに腰掛ける私の左隣に座って、里桜が呆れ顔でため息をついた。


「なんでよ?」


里桜がどうかしたのって聞くから、さっきの頼の言動を、正直に話しただけなのに。


「てかさぁ、その痴話喧嘩って必要ー?」

「ちょ、」

(ちょっと待て!どうしてそうなった!?)


紙パックのいちごミルクを飲んでいた私は、危うく噴き出しそうになった。


「ち、違うし!!痴話喧嘩とかじゃないし!」

「そうだねぇ、律花が勝手に拗ねてるだけだもんねぇ」

「拗ねてもないっ!!里桜、話聞いてた?」

「聞いてたよぉ。本当素直じゃないねぇ。ね、香織ちゃんもそう思うでしょ?」

「うん。重症だね、これは…」


私の右隣に座って、私と里桜のやりとりを楽しそうに聞いていた香織が、すかさず頷き里桜に同意する。


「二人とも酷い!!」

「酷いのは私の席だよ、一番前…しかも教卓の真ん前なんて地獄だわ」


何やらさらりと話題を変えられた気がするんだけど、ーーーー確かに私も里桜の席にはなりたくないな。

英語の先生に朗読とかよく当てられるし、数学の先生には宿題やってきてるかさりげに見られてるからね…。


「ご愁傷さま…」

「あ、他人事だと思ってぇー」

「成績上がるんじゃない?ガンバッテ!!」

「香織ちゃんまでぇ!」


お弁当を食べながら三人で、そんな他愛ない話をしていると、同じクラスの女子三人が歩いてくるのが見えた。


「青島さん」

「はい?」

まさか私の目の前で立ち止まるとは思わなくて、驚いて顔を上げると、中でも一番背の高い神奈川(かながわ)梨々(りりか)さんが私を見下ろしていた。


「あのくじ引き作ったの、青島さんだよね?」

「ーーーーそうだけど?」


神奈川さんはクラスでも目立つ存在で、中心的人物。素行が悪いとかでよく生活指導の先生に注意されているーーー言ってみれば同じクラスでも私はあまり話したことがない女子だ。


その神奈川さんが、なぜ私にそんなことわざわざ訊きに来たのだろう?


ーーーーそんな疑問は次の瞬間、すぐに消えた。


「赤下くんと近くになれるように細工でもした?」

「………細工?」


(ああ。そういうこと…。)


「ちょっとそれ、言い掛かりだよ!?」

私が答えるより先に、香織が感情的に声を荒げる。


「香織、」

「だって律花っ!」

「ありがと、でも。いいから…」

納得いかないという表情の香織を、自分でも驚くほど冷静に諫める。


神奈川さんの気持ちにすぐに気が付いたからか?

ーーーいや。

心の中で……いつかこんな日がくるんじゃないかって……思っていたからかもしれない。


「細工なんて、してないよ?」

「でも証拠はないよね」

「証拠って…、」


正直に話しても無駄なようだ。

証拠を出せだなんてーーーーそこまで突っ込まれると思わなかった私は、驚いて言葉を切る。

すると一瞬、神奈川さんが口元に勝ち誇った表情を浮かべた。そして手を腰に当てて、続けた。


「だいたいさぁ、赤下くんキープするのはなんで?付き合ってないんだよね?」


「キープなんて……」

思わず言葉を濁し、うつ向く。


“してない”とは、言い切れなかった。

だって頼のことを独り占めしたいと思ってる自分もいるから。


そんな感情がある自分に、

そんな感情がある自分を認めた自分にーーーーまさに今、悩んでるわけで。



「・・・・・」

押し黙るしかできない私に、神奈川さんが突き刺すように言った。


「彼女でもないのに、自分ばっかりずるいと思わない?」


(・・・・思うよ。)

私は狡い人間だと、自分が一番よく分かってる。

こうやって胸が痛むのもーーーなんて自分勝手なんだろうって…思う。


だけど。


「ーーーーごめん。」

「それはどういう“ごめん”なの?」


業を煮やしたように、神奈川さん口調がきつくなる。


「それは…ーーー」


頭の中で、なんて説明しようと考えを巡らせた。



“頼のことが好きだから”と私がそう言えばーーー問題は解決するのだろうか?


だけどそれを言ってしまえばきっと……“じゃあ付き合え”って話になるだろうし。


私は頼と付き合いたいわけではなくて。

ただ、傍にいたいだけで。


だけどそれはーーーー“狡い”こと?

そんな風に、頼を“キープしてる”私が悪い…?


(ただ、傍にいたいーーーーなんて……やっぱり、)


無意識にぎゅっと拳を握ってた。


『好きでごめん』

好きな人に、あんなことを言わせてしまうのは。


(やっぱり…ーーーーダメだよね…)



「神奈川さん、わた「なぁ、何の話してんの?」


泣きそうになるのを堪えて勇気を振り絞り、自分の気持ちを口にしようとした、その瞬間。


神奈川さんの背後から、私たちの会話に割って入ってくる男子の声がしたーーーー。

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