69、席替え
「はい、では今日からこの新しい席で残りの一学期を過ごしましょう!」
面倒臭がりの担任である百田先生が、ようやく席替えを実行したのは期末テストを控えた7月の初旬のことだった。
明日やる、が来週やる、になり――――延ばし延ばしでようやく、今朝のホームルームで行われた。
くじ引きで引いた番号とランダムに書かれた黒板の番号と同じ席に座ることになり、私は二十七番――――窓際の真ん中の席だった。目立つこともないし念願の窓際で、私にしてはなかなか良いくじ運だった。
頼は――――と目で追うと、ちょうど私の斜め前に座るところだった。
(隣だったら良かったのにーーーーー…)
頼の広い背中を見つめていたら、突然頼が振り返って、不覚にも目が合ってしまった。
(ぅわ…っ)
私はぎこちなく目を逸らす。
(やば…なんか反射的につい、)
何となく目をそらしてしまった気まずさから、顔を隠すように頬杖をついて、窓の外を眺めているふりで誤魔化す。
(っていうか…私いま――――“隣だったら……”とか考えてなかった?)
そんなことを思い返して自爆した。
どうなってるんだ私の思考回路!
それじゃまるでーーーー。
(まるで………恋してるみたいじゃないかーーー。)
「お!赤下、俺の前じゃん!!」
悶々としているところに隣からそんな大きい声がして、私はつい横目で見てしまう。と、大西くんが私の隣の席に座るところだった。
大西くんは、頼と同じバスケ部で身長もあまり頼と変わらない。ただ、過去に柔道でもやっていたのかと聞きたくなるほど体格が良い。まるで熊だ。肌の色も白いから、白熊のようだ。
「あ。」
私の視線に気付いてか、大西くんと目があった。
「どうも・・・」
何と言ったら良いのか分からず、一言そう声をかけてみたけれど多分顔は引きつっている。
(苦手なんだよな、大西くんみたいな騒がしいタイプ……)
大西くんはなにも悪くないんだけど、小学生の頃よく私と頼のことをからかったのがこういうタイプの男子だったから。
過去のことを思い出していると、隣の大西くんが少し私に体を寄せてこそっと耳打ちしてきた。
「俺、赤下と代わってやろうか?」
「は?なんでよ、余計なことしないで。」
また反射的に、そんなきつい口調になってしまった。自己嫌悪に陥る寸前の私に、大西くんが苦笑いを浮かべる。
「まぁまぁ、そんな照れんなって!」
「照れてないから」
私が尚もそう否定すると、今度は頼の背中をつつく。
「なぁ!赤下も、青島の隣が良いんじゃね?」
(な、何勝手なこと…っ!)
焦って口を開きかけた私の耳に、次の瞬間ーーーー冷静な頼の声が聞こえてきた。
「いや、大丈夫。」
(え……?)
「マジで?いいのかー?後で変わってくれとか言われても変わらねーからな!」
大西くんが笑って頼の背中をバシッと叩いた。
私はそれを、呆然と見ていたことにーーーー数秒後に気がついた。
(何よ……)
『いや、大丈夫』
絶対喜んで“代わる”って言うと思ったのに、どこか不機嫌にそう言った頼の言葉が、胸に引っ掛かっていた。
(意味わかんない……)
“席、離れたくない”とかって………言ってたくせに。
“大丈夫”って、何よ!
なんで……私がショックを受けなきゃならないのよ!バカ頼!