67@頼視点
ずっとーーーもう二度と叶わないと思ってたから。
『それでも隣に、居てもいい?』
大切な存在が自分の腕の中で、黙って頷いてくれた。
それだけで良かった。
それだけで、毎日が輝いて見えた。
今日の部活のラストは、一年と二年の紅白戦だった。
「赤下、ナイッシュー」
残り三秒のところでスリーポイントを決めた俺は、同じ一年の仲間とハイタッチして喜ぶ。
「赤下。」
「はい、」
名前を呼ばれて振り返ると顧問の澤本先生が俺に言った。
「お前、来月の練習試合ちょっと出てみろ」
「は、はい!」
一年の俺が?と半信半疑ながら返事をする。だけど確かに最近驚くほどシュートが入るしパスも通る。
律花といるようになってから、何もかもが順調すぎるくらいだ。毎日が楽しいと心から思えたのは初めてかもしれない。
「絶好調だな赤下!」
部活を終え、体育館のモップがけをしていると部長の田辺先輩にそう声をかけてもらえた。
部長には、入部した時から可愛がってもらっている。
「ありがとうございます!」
「じゃ、お先!」
「お疲れ様でした」
帰っていく先輩に頭を下げて、顔を上げると隣に同じ一年、しかも同じクラスの大西が立っていた。
「なあ、赤下」
大西は普段明るくてムードメーカーな存在だ。なのに今、なぜか深刻そうに眉に皺を寄せている。いったい何事かと俺は彼が話し出すのを待った。
「・・・お前、青島と付き合ってんの?」
「いや?付き合ってないけど。」
一瞬“コイツ律花のこと狙ってるのか?”と不機嫌になりかけた。だが、俺が否定すると大西はますます深刻そうに表情を硬くした。
「好きならさっさと付き合えよ、」
「・・・・なんだよ、急に」
何が言いたいのか分からないし、そもそも他人に“付き合え”なんて口出しされたくない。
だけど俺がそう言い返すと、大西が目を見開いて言った。
「急?まさかお前、気付いてなかったのか?」
「え?」
「なんだよマジか・・・。」
天を仰ぐようにして大西が呆れた顔をする。そしてゆっくりと口を開いた。
「―――青島、クラスの女子達多数から避けられてるんだぞ?」
(は?)
大西の言葉を頭の中で反芻する。
(避けられてる?律花が?)
「なんで!?」
「なんでって。お前のせいだろ?」
「・・・・俺?」
掴みかかるぐらいの勢いで問いだたそうとしていた俺は、大西の思いがけない返しに唖然としてしまう。
「お前モテるんだから、そりゃ女子達だって青島に嫉妬するだろうよ。付き合ってないのに当然みたいに毎日お前と一緒にいるんだから。」
「・・・・・なんだよ……それ…」
女子が、律花に嫉妬?
ーーーーー俺のせいで?
俄には信じがたかった。
(なんでだよ…だって……そんなの…)
自分の愚かさに、愕然とした。
律花が隣にいてくれて。
それが嬉しくて完全に舞い上がっていた自分を殴りたくなる。
(――――律花がどんな気持ちでいたのか、気づきもせずに。)
「それに……。―――や、いい。なんでもない」
ショックを受けたまま立ち尽くしていると、大西が何かを言いかけてやめた。
「なんだよ気になるだろ?“それに”、なんだよ」
「とにかく!これ以上悪化する前にお前ら正式に付き合えって」
気遣うような、何かを誤魔化すような大西の言葉は、俺の心に突き刺さった。
(そんなの、出来たらとっくに付き合ってる……)