61@頼視点
(ヤバかった…)
もしあの時……弥生さんが帰ってこなかったら――――…。
触れそうな距離にまで近付いても、拒否しなかった律花を思い出して胸が熱くなる。
(律花、……可愛すぎ…)
興奮覚めやまぬまま青島家を出た俺は、あの瞬間を何度も思い出していた。
「ただい…「遅ぇよ!!」
自宅に戻ると、玄関先にイラついた表情の羽虎が仁王立ちしていた。
(あ、やべ…。こいつの存在、すっかり忘れてた…)
「アイス買うのにどんだけ時間かかるんだよ!ちょうど今、帰ろうとしてたところだ!」
「ああ、悪い悪い。ほら、アイス…」
そういえば。羽虎の分のアイス、律花が冷凍庫で保冷してくれてたんだよな…。
羽虎にアイスを手渡しながら、また律花のことを思い出してしまう。
「……なんだよ?」
――――ふと視線に気づいて羽虎を見ると、怪訝な顔をしてこちらを見ている。訳が分からないため俺がそう問い掛けると、羽虎の表情はさらに悪化した。
「なんだよはこっちの台詞だ、その顔はなんなんだよ?」
「顔?え、なんか顔についてる?」
「気色悪いほどニヤついてやがるだろーが!頼、自覚無いのかよ」
俺の部屋に戻って、帰りが遅くなった理由を一通り説明している間に、羽虎はアイスを食べきった。
そして、アイスの棒を口に加えたまま口を開いた。
「――――で?青島律花が彼氏と別れたってのを聞いて、浮かれちゃってるわけか頼は」
(浮かれて…る?)
「いや。…そう、ではないと思う」
確かに田端くんと別れたと聞いて、嬉しくなかったわけじゃない。
だけどそれより俺が嬉しかったのは、律花がそれを俺に話してくれたという事実で。
(それに…――――)
『律花が好き』
思わず口にしてしまった自分の気持ち。
田端くんと別れた理由より、今の正直な律花の気持ちが知りたいと…―――思ってしまったあの時。
『律花は?』
『――――し、知らないっ』
――――あの瞬間、確かに感じたんだ。
律花の横顔が真っ赤になっていて、照れ隠しにああ言ったんだって。
「それにしても一日二日で別れるなんて、彼氏だったやつも気の毒だな。青島律花って、実は悪女じゃね?」
「良いよ、律花なら悪女でも」
羽虎の言葉にムッとしながらそう答えると、羽虎はなぜかため息を吐いた。
「……お前どんだけだよ。つうか、そんな好きならさっさと付き合えば?」
「いや、付き合わない。」
「あ¨あっ?!なんでだよ?」
「律花が、それを望まないから」
そう。
好きとも嫌いとも言わなかった…――――それが律花の答え。
それが今の、律花の正直な気持ちだから。
“付き合えない。けど、嫌いじゃない。”
――――そこにまだ、君がいるから。
「なんだそれ。」
羽虎の呆れた声に、顔を上げると珍しく真顔になって羽虎が言った。
「それ、ただの言い訳だろ。自分が傷付かないための」