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―――思いがけないことって、あるんだな。
思ったよりも美味しくイチゴのアイスを食べていた私は、そんなことを思っていた。
(このソーダとイチゴ、絶妙にマッチしてて美味しい!)
上機嫌に食べ進めていた私は、次の瞬間――――更なる思いがけないことが起こるなんて……予想できるわけがなかった。
「それで?」
頼の声に、アイスを食べながら私は顔を上げる。
完全にアイスに夢中で、――――油断していた。
「なんで田端くんと付き合えないって言ったんだよ?」
(んなっ!!!!?)
残り半分になったアイスをかじろうと、口を開けていた私は……池にいる鯉みたいに口をパクパクさせてしまった。
「なっ、なんで今それ訊く?」
声が動揺のあまり裏返った。その恥ずかしさからか顔の温度が上がっていき、赤面しているのが分かって、私はそれを隠すようにうつ向いた。
「なんでって…路上で話すことでもなかっただろ?」
「・・・・まぁ、」
冷静にそう返されて、つい納得してしまう私ってどうなんだろう。だけど、・・・さぁ。
こっちにだって、心の準備とか……必要なんだけど?!
「田端くんと仲良かったのに、なんで?」
長い睫毛を若干臥せて、切なそうな表情を向ける頼。
何がそんな、悲しいの?
私、別れない方が良かった?
なんでそんな表情、すんの?
(――――頼が悲しいと、私も悲しい・・・)
すぐそこにある悲しげな表情の頼に、思わず手を伸ばしそうになった私は、そこで自分の置かれている状況に気がついた。
「―――あのさ、頼、」
「ん?」
「とりあえず、顔・・・近いんだけど。」
なぜソファーに座る私に、覆い被さる必要がある?
というか、絶対おかしいからこの距離感!
「そう?」
「そう!だからちょっと離れ……」
離れてよ、と頼の身体を押し返そうとしたその時だった。
「律花が好き」
頼の言葉が、上から降ってきた。
(だから…――――なんで、今なの?)
軽く目眩がする。
私の心を全部支配する、頼の言葉。
(こんな、急に、そんなこと言う?)
感情が追い付かなくて、感極まって、泣いてしまいそうだ。じわぁっと目頭が熱くなる。
「律花は?」
「――――し、知らないっ」
咄嗟にプイと横を向いてそう答えてしまう、可愛くない私を、頼がクスクスと笑う。
「そういう照れ屋なところも好き」
「も、もぉ!イチイチ口にしなくていいから!」
追い込んで、逃げられなくしようとしてない?
でも追い込まれると……怖くて逃げ出したくなる。
(この雰囲気に、もう堪えられないよ……っ!)
頼の言動に困惑していた私は、ソファーに座ったまま身動きもとれず、ただ頼を見つめた。
「――――口にしておかないと、後悔するから」
「え?」
さっきまで楽しそうに笑っていた頼が、急に真剣な表情になる。
「頼…?」
「もう、後悔するのは嫌なんだ」