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私と頼は、幼い頃からずっと仲が良かった。
あの時、頼があんな事を言うまで―――私たちはずっと一緒だった。
――――だけど、気づいてしまったんだ。
再会した頼が、私の知ってる彼とは少し変わっていて。
あの時“仲が良かった”のは、男女としての意識がなかったから出来たことで。
(“健全な友達に”、なんて言っている時点で――――…私は……)
玄関は鍵がかかっていて、ドアを開けても母のいる気配がなかった。
(こんな時に限って……)
シーンとした家に私と頼二人きりなんて、意識しないって方が無理だ。
私がこんなにギクシャクしているのに、頼はたいして意識していないのか平然としている。…なんか、それが気に食わない。
「ほら、律花好きだろ?」
ガサガサとコンビニのビニール袋からアイスを取り出して、頼が笑顔を見せる。
(その笑顔だけで、やられるんだけど!)
こっちが必死に平静を装ってるところに、ふいうちまで喰らわせるなんて。なんなんだこいつは。
と、心の中で悶えながらも私は、素直に頼に差し出されたアイスを受けとる。
「ありがと。――って、…え?なんでイチゴ?」
「かき氷はいつも、イチゴだっただろ?これ、外側サイダーだけど中はイチゴなんだって。季節限定らしいぞ、レアだろ?」
得意気な顔してるけどそれ、いつの話よ?
…まぁ、確かに?
幼稚園とか小学校の時はそうだったかもしれない。
しれないけど……。
「…なんでそんなことまで覚えてるのよ?」
相変わらず、素直になれない私は、目をそらしてそんな言葉を口にしていた。
私のこと、ずっと想ってくれていたんだ、って。
ずっと忘れてなかったんだ、って。
胸は熱くなってるくせに。
だけど私がそんな憎まれ口叩いても、頼は頬をゆるめて笑う。
以前より、優しく笑うようになってて。
昔みたいに、優しい頼に戻った気がして。
私ばかりが頼の表情にイチイチときめいていて。
私の心臓が、頼にばかり反応するのが悔しい。
「私、ここ最近はイチゴよりレモンなんだけど」
(だからって、こんなの負け惜しみかもしれない。)
「え、マジ?」
「マジ。」
私がドキドキを抑えて真顔で言うと、頼が残念そうに笑った。
「なんだよー。じゃあそれ、俺食べるから」
(え?)
まさかの返しに、私は焦った。そこまで優しくされると思わなかったのだ。
「いい!大丈夫!」
俺のと替えてやるから、と手を出してきた頼から逃れるようにアイスを隠すようにして私は答えた。
「今だけは、イチゴの気分だし!」
「なんだよそれ、」
「でも。今だけ、だからね!!」
「はいはい、」
理由を必死につけ加える私に、頼はまるで子供をあやすように笑って応える。
(―――だって、頼はイチゴ味って苦手じゃん。)
チョコだって、アイスだって、昔からイチゴ味のものは好きじゃなかったくせに。
果物のイチゴは好きだけど、お菓子のイチゴ味は嘘の味がするから嫌だとか言って食べなかったじゃん。
(私だって、覚えてんだからね……っ)
それに―――――…。
折角私にって買ってきてくれたんだから。
嬉しくない、わけがない。
アイスの袋を開けて一口噛るとシャリッとした舌触りが冷たくて心地好かった。
(美味し……)
久しぶりに食べるイチゴのかき氷味はなんだか懐かしくて、昔よりも甘く感じた。