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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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57

「田端くん、急用でもできたのか?」


立ち尽くしている私に何気なくそう問い掛けた頼。

不思議そうに田端くんの背を見つめている頼は、思いもしてないだろうな。


「ーーーー別れた」

ドキドキして、声が掠れた。緊張して、声が震える。


「私、田端くんと付き合えないって…言ったから」

「わ、え?――――…それって、」


何か言いかけた言葉を呑み込むようにして、頼は右手で口元を覆うと何か考え込んでいた。

「・・・・・」

私はそんな頼を黙って見つめていた。

緊張のあまり激しく音をたてている心臓が、口から飛び出してきそうだ。


(何か、言ってよ…)

この沈黙が、気まずくて堪えられない。


「……行くぞ、」

思ってもいなかったそんな頼の言葉に、私は頭がついていかなくて、何を言われたのかわからなかった。


「え?」

「家、帰るだろ?」

「ーーーーあ、うん…」

そう言われて、私はつい頷いてしまった。

頼は私の返事を聞くと、何食わぬ顔で歩き出す。



そりゃ今、家に帰るところだったけどさ…。

ちょっと待ってよ……。

私、今かなり勇気出したのに、聞かなかったことにするの?“別れた”って言ったんだよ?


(理由……訊かれると思ったのに。)


それとも頼にとって私はもう、その程度なのか?


心の中で頼に訴えながら、私は黙々と隣を歩く。

だけどそんなことを思いながら、はたと気付いてしまった。



(違う。――私がそう望んだんじゃないか)


自分が作った“友達”という境界線。

踏み込まれるのが怖くて、踏み込んでしまう勇気がなくて一線を引いたのは私で―――…それを頼は、守っていてくれてるだけ。


じっと頼の横顔を見つめていると、視線に気付いた頼が私を不思議そうに見て言った。


「なんだよ、律花もアイス食べたいのか?」

「ばか…」


なんでそうなんのよ、違うでしょ!?

そう言い返してやりたい。

だけど、臆病な私はそれが言えないんだ。


(()えないんだよ……。)

田端くんと別れた理由を訊かれたら告うつもりでいたのに。その勢いはすっかり消えてしまっていた。



「ばかって何だよ…。せっかく律花の分も買ってきてやったのに!」

「え?」

「ついでに買ってきたんだ、律花の好きそうなやつが偶々(たまたま)売ってたからな。―――とりあえず、今からそっち行ってもいい?」


頼がまた想定外なこと言うから、私はパニックになる。


私の分のアイスも?

え、私の好きそうなやつって?

なんでそんなこと知って――――…というか、今何て?


「え?待ってよ、“そっち”……って?」

「だから、律花ん()。俺ん()今、羽虎来てるし」

「え、」


(羽虎って、里桜と仲良さそうだった…“あの”?)


あ。――――頼がさっき言ってた“幼馴染み”って、あの人のことか。なんだ・・・、そっか。


「頼、仲良かったんだ?」

「ん?まぁな、中学一緒だったし」

「・・・ふーん」

(そっか。あの人と、仲良かったんだ。なんか、意外。)


頼とあの羽虎って人が幼馴染みとして仲良くしてたなんて、なんだか奇妙な組み合わせで笑ってしまう。


「律花?」

「ん?」

「何?ホッとしてんの?」

頼が突然、少し屈んで顔を覗きこんでくるから、私は至近距離に過剰反応してしまった。


「は…っ、はぁ?してないからっ!」

(っていうか、ニヤニヤすんな!)


“幼馴染み”(あいつ)に嫉妬してたんだ、律花ちゃんは?」

「してない!してるわけないし!なんで私が…っ」


してないって言ってるのに、頼が嬉しそうに笑う。

その笑顔が私の心を、ドキンッと跳ねさせる。



(ねぇ……頼も、同じなんだよね?)


『もしこの先、律花を悲しませるようなことしたら…黙ってるつもりはねぇよ?』


田端くんにそう言ってくれた頼の気持ちが嬉しかった。


『俺は過去に…自分の身勝手で律花を傷付けたんだ』


“あの時”(小学生の時)言葉(こと)をずっと気にしてたのは、私だけじゃなかったことに・・・私はようやく気付いたんだ。



だからもう、言わなくても分かってるって。

―――もう伝わってるんだって、思ってもいい?


(私たち……両想い、なんだよね?)


そんなことを聞く勇気なんてあるはずなくて、私はチラッと頼を盗み見た。

――――はずだったのに、バッチリ目が合った。


「何よ…」

「べっつに?」


照れ隠しに睨んで見せても、それも全部お見通しみたいに頼が笑うから。

私はもう、なにも言えなくなってしまった。

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