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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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56@頼視点

「そうなんだ!―――ところで、俺は中学の時からずっと律花のこと好きだったんだけど。」

「た、田端くん!?」

慌てふためく律花を横目に微笑んで、田端くんが(こちら)に視線を向けると笑顔で言った。


「赤下くんは?」

「え、俺?」


それはあまりに唐突で、まったく想定外だった。

(あの普段温厚で大人しい田端くんが、)


俺に敵意を向けていることは、彼の瞳の奥を見れば分かった。


(だけど……、なぜだ?)

俺にそれを()う意味がわからないし、俺の気持ちを訊く意味がわからない。


律花と今、付き合ってるのは田端くんで。

田端くんを選んだのは律花なのに。


(俺をライバル視してるってことか?)

だとしたら、それは光栄だな。

律花の心の中に、少しでも自分が入り込めているのなら。


「ちょっ、()…っ!頼、喋んなくていいから…っ」

必死にそう懇願する律花の声を無視して、俺は正直に答えた。


「俺は出逢ったときからだから……3歳か、4歳か?…いつからだったかなんて、もう覚えてないな」


別に隠すつもりも張り合うつもりもなく、ただ訊かれたからそう答えた。

律花に告白してフラれたからなのか、オープンに気持ちを口にすることができた。そんな風に開き直っているのは、これ以上期待することも傷付くこともないからだと思う。


「なっ…、何言ってんの?」

俺の言葉に律花は毒づきながら顔を赤くしてうつ向き、その隣で田端くんは首をかしげた。


「ーーーーそれなのに、俺と律花が付き合っても何にも言わないのはなぜ?」

「なぜって、…俺は律花がそれで幸せならなんでもいいよ」


半分は本当で、半分はそうでありたいという願望。


“あの時”の言葉を取り消してもう一度やり直したい。また俺を好きになって欲しい。誰にも渡したくない。無理してでも、君の理想に近付きたい。

――――そればかり考えて、律花に接してきた。


(だけど律花が俺に望んだのは、“友達”になることだったから。)



「俺は過去に…自分の身勝手で律花を傷付けたんだ」


『別に何とも思ってないよ、ただ親同士が仲が良いだけで』

あの言葉がどれほど彼女を傷付けたのか、今になって痛いほど分かる。


“あの時”の自分の弱さの代償が、彼女の心に傷を残してしまった。

だから今もそれが律花を苦しめているのなら、俺は律花が笑ってくれるために出来ることをする。――――例えそれが、自分の気持ちを殺すことになっても。


「そういうわけで。もしこの先、律花を悲しませるようなことしたら…黙ってるつもりはねぇよ?」


「そっか」

田端くんが、繋いでいた律花の手を離した。

何が納得いったのか、彼は急に吹っ切れたように清々しい表情になった。


「すごいね、やっぱり俺とは格が違うね」

俺に見せつけるみたいに律花に顔を近づけて何かを囁くと、律花は耳まで真っ赤にしてさらに視線を下に泳がせた。

「そんなに想われて、幸せだね青島さん」


傘が邪魔で声が届かない。

一体何を言って、律花にあんな表情させてるんだコイツ!!


(何も言わないとは言ったけど嫉妬はするんだぞ、この野郎!!)


心の中でそう叫んで睨み付ける俺に気付いた田端くんが、静かに微笑んで言った。


「赤下くん、俺もその気持ち、分かる(● ● ●)よ」

「は?何が―――…」

「だから悲しませるようなことしたら、黙ってないから」

「は?」

一方的にそう告げられて、訳も分からず混乱している俺をスルーし、田端くんは律花に向き直ると言った。


「結局最後も、家まで送れなくてごめん」

「ううん…大丈夫。」

「じゃあまた明日、学校で」


突然別れの挨拶をして立ち去る田端くんと、それを見送る律花。二人の言動に一人ついていけていない俺は困惑していた。


「あ、…おいっ」

俺の呼び掛けにも応じず、田端くんは背を向け元来た道を帰っていく。


律花の家に行くんじゃなかったのか?

なんなんだ、急に――…。


「田端くん、急用でもできたのか?」

隣に立ち尽くしている律花に何気なくそう問い掛けた俺は、次の瞬間耳を疑った。


「ーーーー別れた」


(・・・・・え?)


「私、田端くんと付き合えないって…言ったから」

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