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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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「やっぱり俺じゃダメだったね…」


傘を並んでさして水族館を出たところで、田端くんが言った。

こうなることを分かってたみたいな口ぶりに、ギクリとして彼を見ると田端くんはへらっと笑った。まるで、安心させようとするみたいに。


「ああごめん。こんな事言うつもりなかったのに」

頭をかいて、田端くんが笑う。それが私の良心をぎゅっと締め付ける。


ポタポタと傘に落ちる雨音が、彼の声を少し聴こえにくくする。


「ダメじゃないよ…っ。田端くんは私の心を癒してくれる、大切なひと。それは本当だから!」


なにをムキになっているんだろう。

こんな言い方じゃあ…田端くんに失礼、だ。


(ーーーーいや、どう言ったって……失礼に変わりない)


だって。


「ダメなのは…私の方で。」

泣きそうになって、喉にぐっと熱いものが込み上げてくる。


田端くんが他の男子と違って優しくて。

優しくて安心できたから。

私なんかを“好きだ”と…正面からそう言ってくれたから。

田端くんの気持ちに応えたかった。それができたら楽なのにって。


(だけど……それは私の身勝手な言い訳で)


「田端くんのことは大切。だけど…」


そう思いながら私はーー本当は自分の気持ちを隠すために、田端くんの優しさにつけ込んで彼を傷付けた。


「“好き”が、違うの…」

気付かないように押し込めていた心の中の言葉が、ほろりと口をついて出た。慌てて口をつぐんだ私に田端くんがふわっと優しく微笑んだ。

全てを許してくれるかのように、優しく……。


「ーーー赤下くんが好き…なんだよね?」


「ど、うしてそれ…」

「うん。知ってたよ、気付いてた。気付いてて告白したんだ」

「…え?」

(知られてた。それなのに……?)

見透かされていたことが恥ずかしくて、一気に顔に熱が集まる。


「だから一瞬でも付き合ってくれて。今日こうやってデート出来たのも夢みたいだった、」


――そんな、表情しないで。


「ありがとう、…青島さん(● ● ● ●)


――お礼なんて…言わないでよ。


「律花でいいのに」

「いやいや、そんなこと出来ないよ」

友達に戻った彼にそう返すのが精一杯だった私に、田端くんが笑って言った。


「赤下くんの視線が痛いからね」

「そっ、か……」

悪戯な笑顔でそう言う田端くんに、私は複雑な気持ちで頷く。


「じゃあ、家まで送るよ」

「や、平気だから」

(これ以上迷惑かけられないよ…っ。)


慌てて手を振り断る私に、田端くんが切なげに微笑んだ。


「最後くらい、送らせて?」

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