53@頼視点
「暇だなー」
俺の部屋で、俺のベッドに寝転がって、スマホをいじりながら羽虎がそう呟いた。
朝起きて今日何しようと考える暇もなく上がり込んできたこいつは、相変わらず我が家のように寛いでいる。俺は呆れながら高校の制服を着ている羽虎に言った。
「お前の高校は今日普通に授業だろ」
「なんで頼が休みなのに俺が学校でつまんねぇ授業受けなきゃならねーんだよ」
(なんだよ、その理屈は。)
「それより里桜は?大丈夫だったのかよ、合宿のとき」
「大丈夫って?」
「告られたりしてなかったのか?ってことに決まってんだろ」
「あー、そう言えば結構呼び出しされてたな」
羽虎の態度に、俺はムッとしてつい意地悪な言い方をした。するとガバッと起き上がった羽虎が、焦った表情で俺を見る。
「まさか付き合ったりは…っ」
「ねぇよ」
「そうか…」
「俺の事へたれとか言いながら、お前も相当だな」
ヘナヘナとベッドに倒れ込む羽虎に、俺は笑って言った。
「アホか、俺はタイミングとか考えてんだよ!」
「とかいって、自信ないだけだろ?」
「なんだよ、お前だってコクれてないんだろ?一緒じゃねーか」
(うわ、ブーメラン…)
羽虎のことをからかいすぎたバチが当たったんだ。
『ごめんね、頼。私……』
――ぐさりと突き刺さったモノが、心に傷を残す。
「・・・・・したよ、告白…」
「ほらみろ!!ーーーーって、えぇっ?…マジかよ?」
ワンテンポ遅れて、羽虎が驚く。
どんだけ俺がへたれだと思っていたんだ、こいつは。まぁ、あれは…したくてした訳じゃないんだけど。
「それで、返事は?」
「フラれた…。つうか、彼氏ができた」
「なっ… お前、それでよく普通にしていられるな」
「普通…?」
(俺は今、“普通”なのか?)
確かにフラれたのに……想像していたよりも落ち込んでいない気がする。それよりも、律花に悲しそうな顔をさせるのが嫌だった。
笑っていてくれるならそれで良いって思った。
―――そういう気持ちがあることに、気が付いたんだ。
『そんなの、ただの同情だよ』
(あぁ…ーーーなんで思い出したんだろう、気持ち悪い。)
『じゃあさ、試してみてよ』
(ウルサイ、キエロ、)
『それが“同情”じゃないって分かったら私、ちゃんと諦めるからーーー』
(もう、やめてくれ…)
「あー、暑ぃな、アイス食いてー」
闇に引き込まれそうな俺を引き戻すかのように、羽虎が突然でかい声を出す。
「頼、買ってきて」
「……なんでだよ」
「だって俺、今日は学校行ってるはずだろ?だからサ」
「お前……ただめんどくせぇだけだろ?」
「正解っ」
ニカッと笑う羽虎が、逆に清々しい。
「“正解っ”、じゃねーよ」
「とかいって、買いに行ってくれる頼くん好きだわー、愛してるわー」
「・・・・行ってくる」
諦めた俺はため息をついて、自分の部屋から出たのだった。