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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
55/140

53、デート

「律花、」

「ん?」

名前を呼ばれて隣を向いた私と目が合うと、田端くんは正面の水槽にぎこちなく目を向けた。


「あ、いや。ーーー久しぶりに来たけど、楽しいよね」

「うん、そだね」


田端くんに言われて、私は笑顔でそう返事をした。


今日は月曜だけど、代休日のためお休み。

田端くんと一緒に近所の水族館にやってきた。

本当は遊園地に行こうかと話していたんだけど、生憎の雨で…ーー仕方ないのでまたの機会にしようということになった。


目の前の水槽を見つめながら、私は魚を目で追う。

スイスイと泳ぐ姿がなんとも自由で羨ましい。


「きれい…」

「うん」

感動している田端くんの隣で、私は静かに頷いた。


せっかく田端くんと初めてのデートで。

こうして田端くんが楽しそうにしているのに。


(消えない……)


『気にすんな、』

まだ耳に残ってる……昨日の頼の言葉(こえ)



大切だからこそ踏み出すのが怖いと、傷つくことを恐れていた。

それなのに想いが強くなってくのは、止められない。


『気にすんな、』

(あんなふうに頼が、無理して笑うからーー…)



蓋をしていた、抑え込まないといけないはずの感情。

ずっと(心 の)秘めていたもの()が、たまらなく熱くなる。


(開けてしまったら、もう戻れないのに。)



『俺が好きなのは、ずっと律花だけだから。』


頼がくれた言葉。

聞くのが怖くて、ーーそれでいて、ずっと聞きたかった言葉。


『ーーーー俺は、笹野とは付き合わないよ』


あの瞬間死ぬほどホッとしたのも、ーーその答えを心はもう知っているから。



『赤下のこと、好きなんじゃないの?』

ーーーー里桜の言葉は、あまりに真っ直ぐで。

『なんで付き合わないの?両想いなんだよ?』


(だからって里桜に八つ当たりして良いわけないのに。)



「律花?」

「田端くん・・・」

心配そうに見つめる彼に、私はなんと詫びればいいんだろう。――謝っても、許されるはずないのに。


「――――帰る?」

田端くんが寂しそうに笑って言った。こんな時にまで、彼は私の事を“分かっている”ようだった。


言葉をつまらせて頷くしか出来なかった私に、田端くんはただ小さな声で「そっか…」と言った。


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