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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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52

赤下家の呼び鈴を鳴らすと、インターホンには応じず直にドアが開いた。ドアを開けた頼は、驚いて丸くした瞳に私を映していた。


「あ、あの…。晩ご飯、持ってきたから一緒に…」

気まずくて先に目をそらした私は、断られるかもしれないという不安から、声が小さくなって、消えた。


(帰れって、言われるかも……。)


「…うん、食べる」

私のそんな不安は、頼の言葉がすぐに消してくれた。そしてすぐに私を玄関に通してくれる頼に、逆に私が驚くほど、“普通”だった。


(なんだ…意識してたの、私だけか)

肩透かしを喰らったような、ホッとしたような妙な気持ちで、私は靴を脱いで玄関をあがった。





「お箸、勝手に出すよ?」


キッチンに入りながら声をかけると、「おお、ありがと」と返事が返ってくる。

私は紙袋からタッパーを取り出して、箸を並べる。

赤い箸は、舞さんが買い置きしておいてくれた私の箸。色違いで同じデザインの青い箸は、頼のもの。


電子レンジで持参した白米を温めている間に、頼が取り皿を持ってきて席についた。


「肉じゃがだ」

タッパーの蓋を開けるなり、頼が嬉しそうに声をあげた。私も温め終わったご飯を持って席について、それを覗き込む。


「あぁ、ニンジン多めだ。嫌がらせだわこれ」

ガッカリしてつい文句を言う私に、頼が笑った。


「律花、まだニンジン食べれないのかよ?」

「食べれないんじゃないよ、苦手なの」

「一緒だろ」

「一緒じゃない!頼なんて、トマト食べれないくせに」

「食べれるよ」

「え?」

「克服したもん、俺」


どや顔でそう言われて、私は言葉に詰まった。


(うっ!なんか、悔しい・・・)


私は取り皿にニンジンを多目に取り分けて、口の中に押し込んだ。


「律花、そんな無理してニンジン食べなくても俺食べるよ?」

()べれるって()ったでしょ」

口の中に一杯に入れながら、むきになってそう言い返す私を呆れた顔で頼が見つめる。

そして次の瞬間、頼がふはっと噴き出した。


「ほーんと、意地っ張り」

ニンジンがグッと喉につまりかけて、私は目が潤んだ。


頼の笑った顔が…ーーーードスッと胸に突き刺さって。


(あぁ。ーーまた油断、した)


「ま、偉いよな。」

頼がそう言って幸せそうに笑う。

さっきから、ちゃんと“友達”として接してくれてる。私のために、頼は“友達”になってくれている。


(ーーーーそれなのに、)


頼の好きが溢れて、伝わってきてしまう。


(どうしよう…ヤバい)


甘すぎて耐えられない空気。

取り込まれてしまいそうなほど、幸せオーラに包まれていくのがわかる。


「た、食べたらすぐ帰るから」

堪らなくなって、慌ててご飯を掻き込む私に頼が少し緊張した表情で言った。


「なぁ。明日、一緒にどこか出掛けない?」


ーーーーーデジャブだと思った。


「あーごめん…、明日は」

「あぁ、彼氏か。」

言葉を濁す私に、頼が苦笑しながら言った。


(彼氏って…)


頼が言うと、泣きそうになる。


罪悪感?それとも疎外感?

そんな風に笑わないで…って思うくせに、心のどこかでホッとしてる自分が、嫌になる。


「気にすんな、ただ部活もないから暇潰しに付き合わせようと思っただけだし」

「ひ、暇潰しって酷くない?」


頼がわざと悪態をつき、私はそれにすかさずツッコんで、この話はこれでおしまいになったけど。


頼が無理して笑ってるんじゃないかと思ったら、私はやっぱりここに来るべきじゃなかった気がした。



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