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「どうかした?」
その声に私はハッとして顔をあげた。
合宿が終わり学校で解散となったので田端くんに誘われ家までの道のりを並んで帰っている最中だった。田端くんが隣にいるというのに、私は無意識のうちにため息を漏らしていたのかもしれない。
「なんか、元気ないよね」
田端くんに心配かけるつもりは無かったのに、里桜に言われたことがずっと尾を引いている。
「…実は昨日、里桜と喧嘩しちゃって。」
「え、笹野さんと!?珍しいね」
「…うん。こんなの初めて。」
笑ってみせたけど、心の中は結構なダメージを受けていて、なんだかぎこちなくなってしまった。
『分かるわけないよ!』
ーーーーあんな里桜、初めて見た。
そもそも、頼の事好きなのかも知れないって少しでも思ってしまった私が情けない。親友なのに、里桜の気持ちを勘繰るみたいなマネして。
(里桜のこと、何も分かってないみたいでショックだ…)
いつも私の話を聞いてくれてばかりで、もともと自分の話はあまりしない子だったから、私も聞くことをしなかった。
(もっと、聞くべきだった。)
「まぁ女の子って色々あるんだよねきっと」
落ち込む私を、田端くんがフォローしようとしてくれてる。それが分かって、私は苦笑して応えた。
(喧嘩の原因、聞かないんだね)
聞かれたら私を困らせるって分かってるからなのかもしれない。
『大丈夫、俺…分かってるから』
以前に田端くんはそう言っていたけどーーー。
(一体、どこまで分かってるんだろう?)
怖くてそんなこと、絶対聞けない。
だけど、もし全部分かっていたとしたらーーーいたたまれなくなる。
それも込みで、田端くんは言わないのだろう。
田端くんに甘えすぎてる、私。
このままで本当に、良いのか?
「仲直りできると良いね」
「あ、うん…」
田端くんの言葉に頷いて、私は何か話題を変えようと考えた。これ以上この話には触れられたくなかったし、田端くんのことも知りたいと思ったから。
「田端くんは、いつも誰と仲良いの?東くんとかクラス別れちゃったよね?」
東くんは私たちと同じ中学出身で、田端くんと仲の良かった男子。同じ高校だけど、残念ながら隣のクラスだった。
「ああ…、そうなんだよな。東とはたまに連絡とるぐらいで。今は林くんとかかな。」
「ああ、林くん。」
林くんは同じクラスで、高校で初めて知り合った男子。真面目でおとなしくて、あまり目立つタイプではない。だからまだ話したことはないんだけど。
「なんか、分かる。」
「はは。なにそれ」
私の率直な感想に田端くんが笑った。
笑うと可愛いと思ったけど、きっと恥ずかしがるから言わないでおこう。
「送ってくれてありがと、田端くんおうち東側でしょ?ここでいいよ」
分岐点で立ち止まり、私は田端くんに言った。田端くんは同じ中学の学区だったけど、家が近いわけではないから。ここまでが共通の通学路。
「そう?家まで送って行こうかと思ってたのに」
「まだ昼過ぎだし、一人で全然平気だよ。」
笑ってそう答えたら、田端くんが少し口ごもった。
「田端くん?」
「うん。分かった、じゃあ…また」
「うん。また明日学校でね」
「律花、明日は学校代休日だよ?」
「…あそっか、うっかりしてた!そうだったね!!」
田端くんに言われて笑うと、田端くんも笑った。
「じゃあ、明後日、学校でね」
そう言い直して帰ろうとした私に、田端くんが緊張した面持ちで口を開いた。
「あの…さ、」
「ん?」
「明日も、会えないかな?」