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この苗字だと、たいてい出席番号は一番だ。
今日から日直制度が始まり、案の定出席番号順で私と…頼が初日の日直となった。
だからこそ、一人でこうして来たのだけど。
「なんで俺にも声かけないんだよ」
職員室からクラス全員分の課題を預かり、両腕の上に積み重ねたものを抱えて歩いていると、後ろから不機嫌な声がした。
「・・・」
立ち止まることも、振り返ることもしないでスタスタ歩いている私の目の前に早足で回り込んだ頼が、通せんぼするように立ちはだかる。
「貸して。俺が持つから」
そう言って手を伸ばす頼の声は、苛ついていた。
(なんで怒ってるわけ?…意味わかんない。)
「―――…大丈夫、このくらい一人で持てるから」
私は手元に視線を落としたまま、素っ気なくそう答える。
「かわいくねぇな…」
聞き慣れない頼の低い声。似合わない口調。
―――ズキンと痛む胸が、憎い。
「…どっちが。」
私が小さな声で無愛想にそう呟いた瞬間、両手が軽くなった。
(え…?)
驚いて目線をあげた目の前に、頼の顔が…あった。
「ちょっ、」
私の両手に頼の手が一瞬触れた。
私の塞がっていた両手から、頼がそっと課題を奪う。
その瞬間。
それは、ほんの一瞬。
本当に突然のことで、予期できる筈もなかった。
そう。だから、―――どうしようもなかったんだ。
「・・・ごめん。」
小さな…そんな台詞が聞こえた気がした。
目を見開いたまま固まる私に背を向け、先に行ってしまう頼。
(な、に…?今の…――――)
手元にあったはずの荷物は全てなくなり、その空いた両手でそっと自分の唇を押さえる。
遠ざかっていく頼の背中を見つめながら、信じられない思いで立ち尽くす。
(――――今、・・・何した…?)