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『私…行かなくちゃ』
申し訳なくて、小さな声にしかならなかった。
『・・・・』
頼は何も言わなかった。
ただそっと距離をとって、道を開けてくれた。
……私はまた、逃げ出した。
会場に着くと、キャンプファイアーは終わってしまったのか、生徒達がワイワイ盛り上がりながらも、まばらに宿へと帰っていく。その、人の波に逆らうように、私は会場を見渡した。
(田端くん……いない)
スマホを取り出して見てみると、田端くんからの着信履歴が5件。lineも入っていた。
(……やばい。)
約束をすっぽかしただけでなく、電話にもでない彼女なんて、もう致命的でしょ…とうつ向いたその時。
「り…律花っ、」
ぎこちなく私の名前を呼ぶ、少し弾んだ声。
ドキッとして振り返ると、田端くんが私をまっすぐ見つめていた。
「あ、田端くんごめ「良かった、連絡つかないしどこにも居ないから心配してたんだ」
目をそらすように頭を下げて謝ろうとした私に、田端くんがホッとしたように優しく笑う。
聞かないんだね、どこで何してたとか。
ーーーどうして目が赤いの、とか。
何も……聞かないで笑ってくれるんだね。
(本当に、ーーーー優しくていい人…)
「・・・ごめん、なさい…」
罪悪感で押し潰されそうな私に、田端くんが言った。
「いや、全然気にしないで?俺、別にキャンプファイアー自体に興味はなかったし」
「え?」
弾かれるように顔をあげた私に、田端くんが照れたように顔を背けてボソボソと言った。
「ただその…、…律花と一緒にいられる口実が欲しかっただけだから」
(田端くん……)
田端くんにつられて、私も照れてしまう。頼なら絶対こんな甘いこと言わない。
ーーーーそんなことを考えて、また頼のことを考えている自分に気づいて嫌気がさす。
(頼のこと…ーーー傷付けたよね?)
頼は何も言わなかった。引き留めなかった。
(私はずるい…)
『俺は笹野とは付き合わないよ』
あの時ホッとしたのは…ーーーまた“友達”でいられるから?
それともーーーー頼が里桜と付き合わないって分かったから?
「もう戻らないとね、部屋まで送ってくよ」
そんな田端くんの声に、現実に引き戻される。
「…あ、ごめんね」
「ううん。良かった、会えて」
ニコッと笑う田端くんが、本当に嬉しそうで…私はギュッと胸が掴まれた。
(私は…ずるい。)
田端くんに微笑み返しながら、心の中で罪悪感と闘う私の前に、里桜が現れた。
「里桜…?」
(なんか…、怒ってる?)
「田端くんちょーっと“彼女”、借りてもいいかなぁ?」
作り笑顔で田端くんにそう話し掛けた里桜は、有無を言わさないような空気をまとっていた。田端くんが頷く前に、里桜が私の手を引いて歩き出す。
「ちょ、里桜っ?」
「じゃあまた、…おやすみ」
里桜の突然の言動に戸惑う私の背中に、田端くんの声が追い掛けてきて私は里桜に手を引かれながら振り返る。
「うん、おやすみ…っ」
訳もわからず慌てて手を振ると、私は里桜に連れられて歩き出した。