47@頼視点
律花が好きだ。
傍にいたいと思うのも、誰にも渡したくないと思うのも律花のことが好きだからだ。
(だけど、それが全部じゃなかった)
「ごめんね、頼。私……」
そんなふうに謝って欲しかった訳じゃない。
そんな悲しそうな顔をさせたかった訳じゃないんだ。
(ただ、以前みたいに…笑っていて欲しいーーーー)
「私、行かなくちゃ…」
「あ、赤下!」
元来た道を戻っていると、息を切らし走ってきた笹野が俺を見つけて立ち止まった。
「あれ?―――律花と一緒じゃなかったの?」
「律花ならキャンプファイアーの会場に向かったよ…」
俺は力なくそう答えた。すると笹野の顔が険しくなる。クラスの男子達が見たら、驚くだろうな。普段お嬢様みたいな雰囲気で澄ましてる笹野が、こんだけ怖い顔したら。
「もしかして田端くんのところに……行かせたの?」
不機嫌な声で、笹野が言った。
行かせたくて行かせたわけじゃない。
だけど律花が、自分で決めたことだから…。
(って、引き留めなかったんだから、行かせたってことか……)
自嘲気味に、そんなことを思う。
そんな俺に、笹野が真顔で言った。
「無理矢理にでも、奪えばいいじゃない」
「無理やりってお前…」
「だって、律花も赤下のこと好きなのに……なんで付き合わないの?おかしくない?」
ーー焦れったいなぁ、もぉ!とやきもきする笹野に、俺は不貞腐れ、呟いていた。
「・・・・そんなの、俺が知りてーよ…」
笹野のことが好きだと友達でいられない、そう言ったのは嫉妬からだと思った。だけど律花は、田端くんを選んだ…。
(それは…なぜ?まだ、信用できないと思われてる?)
それとも…ーーーー。
『律花ちゃんとは、付き合えないよ』
西野の言葉が、脳裏をよぎる。
付き合えない。
俺と律花は、ーーーー…付き合えない?
暫くの沈黙を破るように、笹野が口を開いた。
「…私、直接律花と話してくる」
「おい笹野…」
踵を返すとすぐに走り出そうとした笹野を呼び止めると、笹野が振り返って言った。
「だってこんなの、間違ってる!」
「・・・笹野」
走って行ってしまった笹野の背中を見つめながら、俺は立ち尽くしていた。
どうして笹野がそこまでしてくれるのか分からない。
だけど本当に、俺と律花をくっ付けようとしてくれているのはわかる。
(ありがとう…笹野)