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「俺が好きなのは、ずっと律花だけだから。」
こんな風に告うつもりじゃなかったのに、と項垂れる頼を、私は目を丸くしてただ呆然と見つめていた。
(ーーーーえ?)
止まらなくて困っていたはずの涙は、いつのまにか乾いていた。
想定外だった。完全に、油断していた。
(ーーーー頼が…私を?)
里桜の言葉は、本当だったの?
だとしたら、香織の言葉は…嘘?
私の自惚れとかじゃなくて?
半信半疑のまま混乱している私に、頼は言った。
「どうせ宮下さんからそう聞いたんだろ?あの人、なぜか俺が笹野のこと好きだと勘違いしてたし」
「“勘違い”…」
バカみたいにそう鸚鵡返しする私に、頼は少不機嫌な口調で続ける。
「なんでそれを律花が、信じたのか分かんないんだけど」
「……ごめん」
頼の剣幕につられてつい、私は謝っていた。
(頼が…私を“好き”?)
まだ頼の突然の告白に、頭がついていけていない。
(本当に?今でも…?)
「まぁでも、もしそれが本当だとして、そのせいで“友達も無理”ってことになってるのなら、その理由、詳しく説明して欲しいけど?」
「え?」
どうして頼が里桜のことを好きだと友達になれないのか。ーーーーそれを説明しろと?
「それは…ーーーー」
親友の里桜と頼が付き合い始めて、それでも二人の隣で平然と“友達”を続けられるほど、私のメンタルは強くないからーーーー…。
(なんて、言えるはずない…)
「俺に、“友達”になろって言ったの、律花だろ?」
「そう、だけど…」
さっきから、言葉を濁してしまう。
(誘導尋問のように感じるのは…私だけ?)
「なんで俺と笹野が付き合うとなったら、律花は“友達”でいられないんだよ?」
頼が私に再度そう訊ねた。
答えは心の中に在る。
(だけど、それを今…口に出して良いのだろうか?)
一瞬浮かんだ田端くんの存在に、私は心が揺れた。
田端くんを傷付けたくなくて、告白されても断らなかった。
だけど私の心の中は頼のことでいつも一杯で。
頼に振り回されたくなくて、自分が傷付きたくなくて……だから“友達”で居たかった。
だけど里桜と頼が付き合うのは……一番つらい。
(その答えは……)
言葉をつまらせた私に、真剣な眼差しで頼が言った。
「ーーーー俺は、笹野とは付き合わないよ」
「……うん」
頼の言葉が心に染み渡る。
ホッとしたらまた涙腺が弛んでしまった。
(頼の事になると、私、ずっと情緒不安定だ。)
「その表情、狡い…」
涙がこぼれる前にTシャツの袖で拭うと、頼が苦しそうに眉を潜めてそう呟いた。
「へ?」
「抱き締めたくなる」
「は、はぁ…っ?」
驚いて変な声をあげた私に、慌てて頼が両手でセーブする。
「しないよ、しない。……これ以上律花に嫌われたくないし」
(嫌ってなんか…ないよ)
頼が好きだと、告ってくれて嬉しかった。
里桜とは付き合わないとハッキリ言ってくれて死ぬほどホッとしてる。
(だけどごめん、私はまだ……)
「ごめんね、頼。私……」
これ以上の矛盾なんてない。
頼が好きだと自覚してるのに、私は田端くんをフることができないなんて。
(……怖くて、踏み出せないでいる。)