45@頼視点
(律…花っ!??)
俺が律花を見つけたときーーーー…彼女はポロポロと涙を流していた。
「律花、」
必死に涙を止めようと、堪えている彼女に一歩一歩近づきながらそう声をかければ、彼女はハッと顔をあげた。
俺を映した大きな瞳から、また涙が頬を伝う。
「どうした?」
まばたきするたびに、涙が溢れ落ちる。
(律花が……泣いてる……)
「目、洗いに行こう。」
俺はたまらず、律花の手をとった。
「やめてよ…」
おとなしく手を引かれながら、半歩後ろを歩く律花が苦しそうに小さく呟く。
「もぉ・・・優しくしないで…っ」
「優しくなんて、してない。」
俺は即座にそう答えていた。
(俺は、ちっとも“優しく”なんかない。)
今だって、キャンプファイアーの会場とは真逆方向の手洗い場に向かっている。ーー田端くんに逢わせないように。
(それにーーーー…)
「目の前で律花が泣いてて、なにもしないなんて普通にあり得ないから」
いつも泣かない律花が涙を流すなんて、気にならないわけがない。だから…何がそこまで悲しいのか、つらいのか、知りたいだけ。
だからこれは自己中心的な行動であって、そこに優しさなんてない。
人の居ない手洗い場に着くと、律花は水道の蛇口をひねり、顔を洗う。
「何があった?」
「・・・何でもないってば」
目を合わせることなく律花は不機嫌にそう答えた。ポタポタと滴が地面に落ちる。
(また、そうやって…―ー。)
『そんなの、自分で考えてよ!』
律花に言われて、あれから考えた。
なぜ律花の態度が変わったのか。
友達になりたいと言い出したのは律花の方なのに。
それすら『無理』と言い出したのは何故なのか。
“友達”にすらなれないってなんだよ?
大嫌いになった?だとしたら、なんで急に?
昨日の朝までは、うまくいっていた筈だろ?
「なぁ、律花……」
「もういいから。里桜と・・・付き合ってよ」
ーーーー律花の言葉に耳を疑った。
「・・・・?」
告白しなくても、俺の気持ちは分かってると思ってた。
だから律花が望むのなら“友達”でもいいとーーーー変わらずに傍に居てくれるのならそれでも良いと思ってたのに。
なのに律花は田端くんと付き合いだし、今現在どん底の俺に、さらにとんでもない事を要求してきた。
「・・・は?」
「里桜が好きなんでしょ?私と友達になろうとしたのも、里桜に近付く為だったんでしょ」
「律花、それ」
同じクラスの宮下さんから聞いた?、そう言おうとする俺の言葉を遮って律花が続ける。
「里桜も、頼と同じ気持ちだって言ってた。お似合いだし、良いと思う。」
律花が、また泣きだしそうな表情を堪え無理矢理笑うから…余計につらくなる。と、同時に苛立ちもする。
(誤解だって、なんで気付かないんだよ…。)
「律花、聞けよ」
「大丈夫、私は…私には田端くんがいるから。だから…もう本当に」
「聞けって!」
律花の言葉に、つい声を荒げてしまう。強がるのは勝手だが、その台詞だけは許せなかった。
「なんだよ…、それ」
(他の男の名前なんか、聞きたくない。そんな理由……聞きたくないんだよ)
手洗い場を背にした律花に、俺は詰め寄る。
ショックやら悲しみやらで頭がおかしくなりそうだ。
「なぁ…俺が笹野を好きだって本気で思ってんの?」
「だってそうなんでしょ?ていうか、そこ退いて」
「そんなこと、いつ言った?」
俺が怒りを押し込め低い声でそう問い掛けると、律花は目を逸らした。そして蚊のなくような声で答えた。
「…聞いた、から」
「俺は、そんなこと言ってないし、思ってない」
「でも、」
それでも何か言いかけた律花に、俺は言った。
「俺が好きなのは、ずっと律花だけだから。」