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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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『私達、健全なお友達になろ?』


あの時……――私がそう提案したのは、頼を“男”だと意識したくなかったからだ。


“異性”として見たくないし、見られたくない。


――――そう思っていた。



合宿二日目の夜、同室のみんなはテンション高く談笑しながらキャンプファイアーのイベントへと向かう。私はそんな皆の後ろを付いて歩いていた。


が、…会場に近づくにつれて足が重くなっていく。


(こんな気持ちで、田端くんに会えない…)



「律花ちゃん?」

ふいに立ち止まった私に、如月由美ちゃんが気づいて振り返る。私は誤魔化すように笑って、答えた。


「あ、私…スマホ置いてきちゃったみたい。皆で先に行ってて?」





部屋に戻ってもずっと、頼の言葉が頭の中で繰り返される。何度も、私の心に問い掛けてくる。


『“友達”でも良いって思ってた。律花が傍に居てくれるなら』


あの言葉に、胸の奥がぎゅっと痛む。


(友達という関係にこだわっていたのは、私。)


“友達”ならずっと傍に居られるんじゃないか…なんて――そんなのは、私の愚かな推測だった。

“友達”でいればその先の関係に踏み出さなくても……それでも繋ぎ止めておけるなんてことにはならない。



(そんなの、今さら気が付いても……遅いのに……)


苦しくて、悲しい。

頼のことで苦しみたくない、頼のことで傷付きたくない。

そう思って“友達”を選んだはずだったのに。


(馬鹿だ……)




「あれ?律花、行かないの?キャンプファイアー。」


部屋の窓からボーッと外を眺めていると、引き戸が開いて香織が顔を出した。


「あ、ううん……」

明るく振る舞わなきゃと立ち上がり、そろそろ行かないとね、なんて話ながら部屋を出た。

そんな私に、後ろから追いかけてきた香織が神妙な顔つきで問いかけてくる。


「ねぇ、こんなこと訊いて言いのか分からないんだけど」


「ん?」

「律花って本気で、赤下くんと仲悪い、の?」

「え…?」

「や、前に苦手って言ってたでしょ?それに合宿中になったら目も合わせないし。親友の里桜ちゃんが赤下くんと付き合わないのって、もしかして律花のこと気にしてるのかなーって。」


私の心の中を香織の言葉は土足で踏み込んでくる。


「・・・さぁ?どうなんだろ?」


やめて、やめてと悲鳴を上げている心をなんとか押し込めて、私は俯いたまま曖昧に笑って答えた。

そんな私の気持ちを知るはずもなく、香織が私を諭すように優しく微笑んで言った。


「友達ならさぁ、里桜ちゃんの恋も応援してあげようよ。赤下くんと里桜ちゃんならお似合いだし」


香織の言葉に、一々傷付く。


(分かってる…)


「律花は田端くんという彼氏がいるわけだし」


頭では分かってる。

そうすべきだってことは。

だけど…追い付かないんだ、心が。


「ね?」



頼が私以外の誰かと付き合うなんて、考えたくない。そんなの、――――見たくない。


想像しただけで涙腺がゆるんで、ポロポロと大粒の涙が目から溢れた。ぐっと堪えても、涙は簡単に止められない。


「え?え、律花っ?」

突然涙を流し始めた私に、香織はギョッとして顔を覗き込んでくる。


「あ…、なんか目の中にゴミが…」


こんな言い訳で、香織が納得するわけないと思いながらも、私の口から咄嗟に出たのはそんな分かりやすい(ことば)だった。


(止まれ、止まれ…止まってよ…)


私の意と反して、涙は流れ落ちる。


「律花、」


ずっと止まらなくて困っていた私に、駆け寄る足音。心配そうに覗き込む瞳が、私をとらえる。


「どうした?」


低い声。でも、優しい声に、涙腺がますます弛んでしまう。


「目、洗いに行こう。」

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