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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
44/140

43

「・・・・」

「・・・・」


先生の御用聞きを終えクラスへと戻るところで、それまでずっと無言だった頼が、口を開いた。


「アイツと付き合いだしたって?」


低くて掠れたような声。

咎めるようなその声になぜかチクンと胸が痛んだ。


「…そう、だけど?」

目を合わさずにそう答える。


(な…っ!?)


すると頼が、私の目の前に立ちはだかるようにして回り込んできた。私は驚いて足を止め、慌てて足元に視線を落とす。



「な、んのつもり…?」

勝手に心臓が暴れだす。意識したくないのに、顔が熱い。

退いてよ、と横をすり抜けようとしても頼がそれを許さない。すぐに目の前に立ちはだかる。気が付いた時にはトンッと背が壁に付き、すっかり逃げ場を失っていた。


「退いてってば…」

(見ないで、見れたくない…―――)


弱い自分。

惨めな自分。

それなのに鼓動は激しくなるばかりで、その矛盾がまたイタイ。



「―――“なんのつもり”って、」

左手で私の右手首を掴むと頼がじっと私を見つめる。真っ直ぐに、熱のある瞳が…私を映してる。


「分からない?」

「………な、に…?」


違うに決まってる、でも。

そんな表情されたらまるで“嫉妬してる”みたいだよ。


(違う、違うんだって。)


心の中でそれを掻き消す。

なんで毎回、期待してるの私は…。

もう、やめよう。

悲しくなるだけだ。



「と、とりあえず近いんだけど、」


至近距離に耐えられなくて、私はなんとか離れようとした。でも、頼の力には敵わない。グッと手首に力をいれても、びくともしない。

頼が、必死な私を見て嗤った。そして、さらに距離を縮めるように顔を覗き込むと愉しそうに言った。


「近いと、何?困るの?」


(こいつ…!)

まるで挑発するみたいに、頼が笑う。私はぐっと下唇を噛んだ。


(悔しい…)


今も…こんなドキドキして心臓が苦しいのは私だ。

頼は、里桜(他の子)を好きになった日から、私のことは里桜(好きな子)を繋ぐ大切な“友達”だった。


(なのに、こうやって近づいてくるから―――)


私の勝手な気持ちだって分かってるのに、怒りが収まらない。


「放して…っ!」

「なんで?…――田端くんに誤解されるから?」


(頼は、なんにも分かってない。)


「・・・そう、だよ」

私は目をそらして、小さな声でそう答えた。


(この距離のつらさが、分かってない。)


だめだ、これ以上は。

次に口を開いたら、嗚咽が漏れて泣いてしまいそうだ。


堪えている私の頬を、頼の指がそっと触れた。


「律花、(こっち)を見て。ハッキリ言えよ」


無理に見上げれば傷付いた時の、頼の表情がそこにあった。

それがどうしてなのかなんて、考える余裕はなかった。


(だってこんなの、残酷すぎる。)


「・・・“これ”が律花の返事(こたえ)?」


頼の問い掛けに、私は何も応えられなかった。

ひたすら泣くのを、堪えてたから。


「“友達”でも良いって思ってた。律花が傍に居てくれるなら」


(そんな言い方は、…狡いよ。)

まるで告白みたいで、クラクラする。


(だけど…違うんだ。違った(● ● ●)んだ。)


勘違いした。

私のこと、想ってくれてたのかな…とか。

そんなのは、ただの思い違いだった。


(私だって…そう思ってた。友達としてずっと傍にいれたらって。だけどやっぱり…)


「…無理」

言葉にできたのは、その二文字がやっとだった。


「は?」

頼の不機嫌な声が聴こえてくる。

私の心を揺さぶる声が。


「“無理”ってなんだよ?なんで急に、」


(それを言わせるの?私に?)


恥ずかしくて、消えてしまいたい。

あんな惨めな自惚れは、二度と思い出したくない。

――――なのに。


「律花、なんでそ「そんなの、自分で考えてよ!」


八つ当たりするみたいに私は叫んだ。

頼の手が緩まったその瞬間、私はその場から全力で逃げた。

頬を伝った涙に、頼が気づく前に。


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