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「あ、寝不足?隈出来てるよ」
朝、グループごとに並んで座ると隣の香織が私の顔を見て笑った。
「さては、彼氏ができて興奮して眠れなかったとか?」
「・・・え」
ドキッとしたのは、香織にはまだ何も言っていなかったからだ。私が唖然としていると、香織が笑った。
「私の失恋は遠慮しないで惚気けても良いんだから。律花、田端くんに告られたんでしょ?」
「・・・うん」
私が小さく頷くと、香織がやっぱりという表情で続けた。
「彼氏、でしょ?」
「そう、だね…」
一瞬近くに頼がいた気がして、私は俯いて答える。それを照れてると思った香織が抱き着いて私に笑顔を向けてきた。
「律花ったら、可愛い!!」
(寝不足で早朝からこのテンションはきついよ・・・。だ、誰か助けて…。)
―――そう思っていた時だった。
「おはよう、律花」
その声に顔をあげると里桜が立っていた。いつものように、華やかな笑顔で。私にはそれが、作り笑顔だと分かっていた。
「・・・おはよ」
小さくそう返すのと、香織が里桜に話し掛けるのはほぼ同時だった。
「ねぇ、里桜ちゃんは赤下くんと付き合わないの?両想いでしょ?」
香織に悪気はない。それは分かってる。
ただ、気になってることを訊いているだけ。
それも分かってる。
(だけど―――それ今一番聞きたくないヤツだよ…)
耳を塞ぎたい、この場から逃げ出したい。
だけど、里桜が私の腕に手を絡ませた。
まるで、逃がさないとでも言うように…。
「両想いなのかなー?まぁ…ある意味想いは同じだと思うけど。」
チラチラ私を見ては、里桜が笑顔で応える。
(限界・・・っ)
「えーなになに、それって」「香織っ、」
前のめりでさらに話をしようとする香織の言葉を遮って、私は声をあげた。里桜の手をそっと話しながら二人に笑顔をつくる。
「私・・・先生のとこ行かないと。――後でね」
言いながら背を向けて、私はその場から足早に立ち去った。
(変に思われた?里桜には特に…)
だけどあの場に居続けたら私今日、何も手につかなくなる気がする。
「律花」
聞き慣れない声に振り返ると、田端くんだった。
「――――お、はよぅ」
赤くなりながらそう声をかけてくれる田端くんに、私も照れながらおはようを返した。
「今日のキャンプファイアーなんだけど、良かったら――…」
田端くんが口を開いたその時、クラスの男子達がこちらを見て声をかけてきた。
「そこのリア充!朝から見せ付けんなよー」
「ウゼー」
からかうような言葉に、私は嫌悪感を顕にして男子達を睨んだ。
「ぅわ、怖…」
すぐにばつの悪い表情になって男子達がいなくなると、田端くんが悲しそうに言った。
「ごめん、嫌な思いさせて…」
「なんで?田端くんは悪くないよ。てかごめん、つい睨んじゃった」
私がおちゃらけてそう言うと、田端くんが安堵したように口元を緩める。田端くんといると、穏やかな心音を感じることができて、私も笑顔になれる。
(田端くんといると、安心する…)
――――そう、思ってたところだったのに。
「律花、」
胸が鷲掴みされたみたいに、苦しくなる。この声に、いつも私の心は反応してしまう。
目の前に現れたのは、やっぱり―――…
「先生が呼んでる」
…―――頼だった。