40@頼視点
就寝時間前の自由時間、俺は自分の部屋で同じ部屋の奴等とトランプをしていた。
そんな時、突然スパンッと部屋の引き戸が勢いよく開いた。驚きの余り、その場にいる奴等は皆、ビクッと一瞬体が浮いた。
「ビッ、…クリした…。」
思わず口をついて出ていた。俺の鼓動はまだドキドキと激しく鳴っている。そんな中、
「赤下クン、」
――――振り返れば、零度の微笑みを浮かべた笹野が一人、立っていた。
「ちょ―っと良いかなぁ?」
「なんだよ、笹野。わざわざこんなところまで…」
人通りの少ない場所まで連れて来られる理由が分からず、俺はそう声をかけた。
「どうして告白しておかなかったのよ!」
振り返った笹野が、突然苛立ちを顕にして言った。
「は?なんだよ、急に」
あまりに突然で、俺は面喰らってしまった。
言っている意味は分かるが、なぜそれを今指摘されるのかが分からない。
「折角私が、忠告してあげたのに。」
「だから何なんー―――…」
順を追って説明してくれよと言おうとした俺に、笹野が目をそらし、苛立ちを抑えるように言った。
「律花、田端くんと付き合いだしたわよ」
(は?)
頭の中が、一瞬にして真っ白になった。
(律花が…――――なんだって?)
律花の笑顔が脳裏に浮かんで、消えた。
まるで夢のなかにいるみたいに足が宙に浮いているような感覚になる。
嘘だ、そんなの。
有り得ないだろ、そんなの。
(なんだよ…それ――…)
「――――・・・・笑えないんだけど」
俺が半笑いで言うのを、笹野は真顔で受け止めて言った。
「冗談じゃないもの。」
俺の目を見て。
ハッキリと…吐き捨てるように、そう言った。
(そんなはずない。そんなはず…)
「あ、いたいた里桜ちゃーん。隣のクラスの男子が探してたよ?話があるって」
この場にそぐわないような明るい声がしたと思ったら、クラスの女子が顔を出し、一方的に話し出した。笹野がその声に振り返るのと、女子が俺の存在に気が付いたのは同時だった。女子が気まずそうに「あ…」とこぼす。
(嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ…――――)
俺の頭の中は、何度も否定する自分の声しかしない。
「そっか、ありがとう。今行くねぇ」
笹野は女子に、いつもの笑顔で応えると俺の横をすり抜けていった。
その瞬間、俺の耳にだけ聴こえるように…笹野が低く小さな声で言い残した。
「なんでちゃんと捕まえておかなかったのよ、馬鹿」