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夕方、食堂でグループごとに夕御飯を食べたあと、入浴さえ済ませばあとは就寝時間まで自由時間となっていた。里桜に誘われて女湯へと向かう途中、私は報告することにした。
「私、田端くんと付き合うことになったから。」
まっすぐのびている廊下の先を見つめながら、何の前置きもなくただ一言、私がそう言うと里桜は長くて美しい睫毛をパチパチさせて、目を見開いた。
(驚くよね、そりゃ…)
私自身、いまだ半信半疑なのだ。田端くんに限って冗談とか、からかうとかあり得ない。
だけどまさか本当に田端くんが私を好きでいてくれて、さらに付き合うことになるなんて思ってもみなかった。
(“鈍感”…か。)
「ぷ…っ、」
里桜が堪えきれなくなったかのように、突然笑い出した。私は意味が分からず不愉快な気分になる。
「なんで笑うわけ?」
「ごめんごめん。私ちょっと聞き間違いしちゃったみたいなの。律花に田端くんという彼氏ができたとかって聞こえちゃって」
まさかねぇ、と含み笑いをしながら里桜が“もう一回、言ってくれる?”と可愛らしく首をかしげる。
「聞き違いじゃ、ないけど?」
私の冷静な声色に、里桜の表情がヒタッと凍り付いた。
「・・・・・」
「・・・・・」
女湯までの長い廊下に、暫く、パタパタと二人のスリッパの音だけが響く。
「え!?なんでっ!?」
やっと言葉の意味を理解した里桜が、私の肩に手を置いて揺さぶってくる。
「ちょ、やめてって…」
「ねぇなんで?訳が分からないし!説明して!」
「説明って・・・・」
里桜に説明する言葉がすぐに見つからなくて、私は付き合うことになった理由を探してた。
「―――嬉しかったから、…かな。私なんかをずっと好きだったと、ちゃんと言葉で伝えてくれたのが。」
違う。
私は逃げただけだ。
本当の理由から目を背けてるだけで―――。
(そう。私は、“鈍感”なんかじゃない。)
そんな私を見透かすように、里桜が哀しい表情で見つめてくる。私は耐えられなくてすぐに目をそらしてしまった。
「じゃあ、赤下に告白されてたら付き合ったってこと?」
「それは、無いよ。」
今度は迷わず即答した。当然だ。
告白されることすら、あり得ないのだから。
なぜなら頼は――――…。
途中で考えることを放棄した。このままこの気持ちを切り取って、捨ててしまいたい。
「無理して付き合っても田端くんに失礼だよ?」
「無理なんかしてない」
ムキになってそう言い返す私に、里桜が真顔になる。
「じゃあ、」
里桜の色気のある唇が、ゆっくりと動いた。
「赤下のことは、いいのね?」