4@頼視点
「青島さん」
昼休みの教室内、ふと誰かが律花の苗字を呼んだ。
視線をそちらへ向けると、同じクラスの男子が何やら親しげに話しかけていた。
「・・・・」
柔らかい表情で、律花がそいつと何か話している。
それを離れたところから眺めていると、自然と唇を噛み締めていたことに気付いた。
――――律花ちゃんのあの表情を見たのは、三年ぶりだった。
「なぁ…あれ、誰だっけ?」
律花とその男子を見つめながら、近くにいたクラスのやつらにそう訊ねると、俺の視線の先をたどり、「ああ」と木下が声を出した。
「田端だろ?田端真。青島さんと同じ中学出身だったんだよ」
俺もだけど、と木下が付け加える。
「へぇ…」
“田端真”――――。
それは俺が知らない律花の、男友達。
「赤下、日直だよね?律花の手伝いに行ってあげなよ」
「笹野…」
律花を見つめていた俺の視界を遮るように現れたのは律花と小学校の頃から仲の良い、笹野里桜だった。
「久しぶりだね。」
「おう」
「じゃあ、よろしくね!」
「ああ。教えてくれてありがとう」
一言二言そう会話して俺が素直に礼を言うと、彼女はにっこり笑って応え、自分の席へ戻っていった。
「お!おい、赤下!お前笹野さんと知り合いか?」
「紹介してくれよ!」
それを遠目に見ていたクラスの男子達が、俺のところに集まるなりテンション高くそう言った。視線は笹野に注がれている。
「小学校、同じだったんだよ」
俺もつられて、笹野を見ながら答えた。
彼女は小学校の頃から髪が長く、毛先に軽くウェーブがかっていて、愛嬌のある顔立ちから男女問わず姫のような扱いを受けていた。おっとりとした性格とその容姿が、“姫”らしさを醸し出していたのだろう。中学は律花と同じで俺とは違った為、俺としては久しぶりの再会だった。相変わらず髪は長く、毛先のウェーブも健在だった。
そして相変わらず、律花と仲が良かったことを知った。
「美人だよな、付き合ってる奴いるか知ってる?」
「いるよ、他校に。」
俺はそう即答した。
笹野里桜には、羽虎という幼馴染みがいる。
正確にはまだ付き合って“いない”が、時間の問題だろう。
勉強の苦手な羽虎は、残念ながらというか当然ながら、うちの高校には入れなかった。その為笹野に変な虫が寄り付かないように監視しろと、俺に頼んできた。―――…いや、命令してきた。
だからここで「彼氏がいる」と言っておかないと、これから立候補者が増えていきそうで怖い。
「マジか。じゃあ青島さんは?」
クラスの男子の一人が、律花の名前を出した。律花は笹野と仲が良いから自然と視界に入る。だからだろうか?
律花の名前を聞いて、木下が少し苦笑いを浮かべる。
「あー、青島さんはやめとけ。」
「え、そこそこ可愛いじゃん。ストレートの肩までの長さとか俺はタイプなんだけどなー」
(―――髪型ひとつで、律花をそんな目で見んな。)
俺はそいつを横目で睨む。が、そいつは気付いてないし、そもそも律花は俺のものではないので何の意味もない。
「青島さん、女子にはめっちゃ愛想いいんだが、男子にはめちゃくちゃ無愛想だぞ。」
木下の言葉に違和感を感じて、思わず聞いてしまった。
「でも田端くんと今、にこやかに話してたよな?」
「ああ、田端は、特別なんだろ」
木下の何気ないその一言に、何か抉られるような気持ちがした。
(“特別”?――――律花の?)
教室を出ていく律花を見つめながら、木下が言った。
「つうかあいつら、付き合ってるんじゃね?」