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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【2】友達
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38

香織の言葉が、ずっと頭の中でリピートされている。


『…里桜ちゃんのこと、好きみたい』


(この間連絡先を交換して、ようやくまた“友達”に戻れたのに。)


友達としてなら、頼の隣に安心して居られた。

私は頼と“友達”になりたかった筈だった(● ● ● ●)


(なのに、――――なんで…)


『…里桜ちゃんのこと、好きみたい』


(あの一言で…こんなにも心がかき乱されてるんだろう…?)

「疲れたねぇ、」

「でも、楽しかったよね」

「うん。あとは明日の夜のキャンプファイアだね」

「それも楽しみだよねぇ」


私のグループがゴールし終えると、既にゴールし終えていた同じクラスの女子達が楽しそうに話していた。私は香織に連れられて何となくその場にいたけれど、会話には加わっていなかった。


キャピキャピ騒ぐ女子たちを隠れ蓑にして、笑顔を作りながら心の中ではずっと頼と里桜のことを考えていた。


「ねぇ…律花、ちょっと!」


田端くんが私を呼んでいたことに気付いたのは、香織が肩を叩いて教えてくれたからだ。

(…ん?)


「青島さん、今、ちょっと…良いかな?」


女子達の視線が恥ずかしかったのか、顔を赤らめて田端くんが小さい声で言った。

「うん…?」

「ごゆっくりぃ」

そんな田端くんをからかうように、香織がニヤニヤしながら私を見送る。





今日宿泊する合宿所から外へ出ると、日が落ちてきて風がまだ肌寒かった。ジャージの袖を引っ張るようにして寒さをしのぐ。


「田端くん、どうかしたの?」

―――先生からの言伝てだろうか?

それにしては、なんか…いつもと雰囲気が違うような。


「ちょっと、中学の時の話しても良いかな?」

「え?―――うん、良いけど…」


畏まった様子の田端くんを不審に思いながらも、私は頷いた。すると突然、深い深呼吸のあと田端くんが話し始めた。


「初めて青島さんに話し掛けたときのこと…覚えてる?」

「え?――――ええっと、確か同じ図書委員で、当番が一緒になったときに」

「うん。図書室で、初めて青島さんと喋ったよね」

「あぁ、そうだったね!」


田端くんがハラリと落とした図書カードを、私が拾って渡したとき、私たちは初めて言葉を交わした。


『これ、落としたよ』

『あ…ありがとう』


「実はあの時、ガチガチに緊張しててうまく手が動かなかったんだよ」

「へぇ、田端くんてあがり症なの?」


クスッと笑う私を横目に、田端くんが苦笑いで答える。


「青島さんていつも真っ直ぐで真面目で優しいけど、男子には結構口調がキツかったっていうか…」

「…あ、ごめん。」

田端くんにも、そんな態度だったんだろうか。

自覚なかったけど、だとしたら申し訳ない。


「だから初めて話したときすごく嬉しくて。あの、つまり・・・何が言いたいのかと言うと、」


(ん?)


なんだか話の流れが、良くない方向へ向かっている予感がする…―――そう気がついた時には、田端くんが赤くなりながら口を開いていた。


「ずっと前から俺、青島さんのことが…――――好きだったんだ」


(…好き?私を?)


戸惑う私の頭の中で、頼の声がした。


『律花が鈍感なだけだ』


(――――なんで今、この瞬間も…。)


浮かんでくるのは、頼なんだろう。


(頼は、里桜が好きなのに…)

締め付けられる胸が、苦しい。


「俺と…付き合ってください」

「・・・えっと、」


(こんな時、私はなんて言えばいい?)


田端くんを傷付けたくない。

あんな思いを、させたくない。

だけど。


(なんて、言えばいい?)


「やっぱり、俺なんかじゃ…ダメだよね?青島さんには、相応しくないよね…」

田端くんが寂しげに嘲笑うから、私は咄嗟に言葉をかけていた。


「そんな事…ないよ」


ダメなんかじゃない。

だって田端くんはいつも優しかった。

他の男子達と違って、隣にいても穏やかでいられる存在で。


(…私にとって、大切なひと…―――だから。)


だから、ここで彼の好意を断るのは…―――彼を傷付けるのは、嫌だと思った。


「え、じゃあ…」

「あ、・・・うん。」

田端くんの言葉に、私は静かに頷いた。


(―――それはきっと、田端くんだったから。 )


「よろしく、お願いします…」

私がそう言うと、田端くんが小さく微笑んだ。

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