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「まずは一個、クリアだな!」
合宿地に着いて、初日である一日目は、グループごとに分かれウォークラリーだ。各グループ、事前に渡されるコース図に従って進み、途中で与えられる課題を解決しながら設定された時間内で歩き、目的地を目指すというものだ。勝敗はタイム得点と課題得点の合計で決まるらしい。まず1問目は、各クラスの担任の名前。あっさり与えられた用紙に書き込んで、次へと進む。
「ええっと、次は…こっちか?」
「よし、行こう。おーい、こっちだぞ」
森林の中を、地図を見て先を歩くのは同じグループの佐藤くんと鈴木くん。そのすぐ後ろに戸塚さんというおとなしい女子と、無口でマイペースな感じの三浦くんが着いていく。そして、その後ろを私と香織が歩いていた。
「香織、大丈夫?…きつい?」
いつになく口数が少なくなっている香織が気になって、声をかけると、香織が顔を上げると笑顔を作って答えた。
「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ」
「しんどくなったら、言ってね?休憩するから」
そんなことを言いつつ、“私がもうすでに休憩したいんだけどね”なんて心の中で苦笑していると、香織が声を潜めて言った。
「律花、―――実はね」
「ん?」
「今朝、赤下くんに告ってフラれちゃったんだ」
「えっ」
(こ、告っ、……で、フラれちゃ…っ!?)
まさかあのあと、そんなことになっていたとは思わなかった私は、つい声を上げてしまった。
(告白…、したんだ…)
行動の早さに驚きながらも、私は心のどこかで焦っていた。焦っていながら、頼が告白を断ったことに…ホッとしていた。
(――――私・・・身勝手過ぎる。)
香織に見透かされないように、少し俯いて髪で表情を隠す。ちょうど坂道だから、足元に気を付けて歩いているように見えてるはずだ。
「そりゃそうだよね、まだ知り合って一ヶ月も経てないのに。だけどさ、やっぱりカッコイイし、誰かに先越される前に早く言わないとって焦っちゃって」
香織も足元に視線を向けながら、明るく笑って言葉を続けた。だけど、その声は…少しだけ声が震えていた。
「――――赤下くんの気持ちも考えずに。そりゃフラれるよね」
「香織…」
慰めるように、私は香織の背中をそっと撫でた。そんな私に、香織は苦笑いを浮かべて言った。
「赤下くん、やっぱり好きな人いたよ。」
その言葉に、背中の手をピタりと止めていた。
ドキンと跳ねた心臓が、香織に伝わらないように背中に回していた手をそっと離す。
(“好きな人”………)
「…里桜ちゃんのこと、好きみたい」
(――――え?)
ガンと頭を殴られたような衝撃で、私は立ち尽くす。香織はそんな私に気付かず、足を進めながら言った。
「あの二人なら、お似合いだよね。みんなが夢見ちゃう前に付き合えばいいのにね」