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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
34/140

33

「遅いっ!」

頼が教室に入ってくるなり、私はそう声をかけた。

もちろん本気で言った訳じゃない。単なる照れ隠しだ。

頼が何かしら言い返してくるのを想定して待ち構えていたのに、何の反応もなかった。私は鞄を手に取ると、頼の目の前にまで近付く。


「どうかした?・・・なんか、顔色悪くない?」

少しつま先立ちをして、背の高い頼の顔を見上げる。


「うん、ちょっと―――」

頼は曖昧に言葉を濁す。恐らく、何か理由はあるけれど言いたくないのだろう。


(言いたくないなら、聞かないけどー―…)

「なんかまた、無理したんじゃない…の?」


溜め息をつきながら背伸びをやめたところで、一瞬、息が止まった。

瞬間的に、頼の腕の中に閉じ込められていたからだ。真っ白になった頭の中で、うるさい心音が頼の身体に伝わっていないか心配になった。


――――だけど今は不思議と、ここから逃げようとは思わなかった。


「こうしてたら、治るから…―――」

そんな消え入りそうな弱々しい声が、頭上に降ってきたからかもしれない。頼の胸に押し当てていた耳から聞こえてきた声に、密着してるこの状態を意識させられて、かっと身体の体温が上がった。


「どんな理由よ、それ」

「うるせぇよ」

こんな場面でも悪態をついてしまう私に、頼は少しだけ笑って答えた。だけど乱暴な口調とは裏腹に、抱き締める腕は優しかった。


「・・・・」

どれくらい経ったのだろう、頼は私を離す気配がまるでない。


「あぁ、そうだ。」

ずっとこの腕の中にいるのには耐えられなくなって、私はそう言いながら、あくまで自然を装いつつ、頼からそっと身体を離した。


「…ほら、お疲れ様。」

鞄の中から買っておいたスポーツドリンクのペットボトルを取り出すと、いつものようについ粗雑に頼に差し出していた。


「え?」

すぐに受け取ることもなくただただキョトンとしている頼に、なんだかこっちが恥ずかしくなってきた。


「何よ、要らないなら…」

「いる!要る要る!」

私が引っ込めようとしたら、頼が慌てたように素早くペットボトルを手にした。


「ありがとな」

「おぅ!」


(“おぅ!”って…男か私は。)

自身にツッコミながら、項垂れる。

頼の笑顔が眩し過ぎて、そんな返事しか出来なかった自分がとことん可愛くなくて、情けない。


「・・・・・」

「・・・・・」


お互い口を閉ざした途端、私は今更、教室に二人きりなのだと自覚した。遠くで、部活終わりで下校中の生徒たちの楽しそうな話し声が聞こえる。


(ダメだ、耐えられない…っ)


「えぇっと、話したいことって…なに?」


頼がいつまで経っても口を開かないから、静まり返ったこの空間に耐えられず、こっちから話題を振ることにした。


「―――うん、あのさ。俺…」


『赤下は律花が好きだって言ってるの!』

頼がようやく口を開いた時、里桜の言葉が脳裏をよぎった。


(嘘でしょ…?ダメだよ、それは・・・)


頼とは付き合えない。

ずっと、友達でいたい。

でも、傷付けたくない。

だから…―――告白なんて、されたくない。


「まさか、告白とかじゃないよねぇ?」

がらにもなくあははと派手に笑いながら私はそう切り出した。バレバレなから笑いだったけれど、そうでもしないと…言えなかった。


「え?」

「まさかそれはあり得ないよねぇ。あ!それとも、何か悩み事?」


明るく、馬鹿みたいにヘラヘラと笑って。

そんな言葉を、早口で捲し立てる。


ここで頼が、「当たり前だろ」と乗ってきてくれれば良いと思いながらも―――…心のどこかで否定してくることを期待している自分も、いた。


「どうして“あり得ない”って(そ ん な 事)言うんだよ…」

「え?」


頼の言葉は聞き逃したけれど、眉間に皺を寄せて私を見つめる表情は、明らかに不機嫌そのものだった。


(お願い…――――()わないで…)


ドクン…ドクン…と心臓がいつもより音を立てている。喉の奥がぎゅっと閉まる。そんな状況の中で、私はただ、頼の言葉を待った。


「俺は――――・・・」



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