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もつれた糸の行方  作者: 夢呂
【1】律花と頼
33/140

32@頼視点

『律花に早く()わないと先、越されるよー?』


今朝のホームルームのとき、笹野が俺にこそっと耳打ちしてふわりと微笑んだ。能天気な素振りで、イタイトコロを突いてくる。


―――“誰に”だなんて、聞くまでもない。


『・・・なんだよ、急に。』

イベント(学校行事)って告白には適してるしきっと向こうも(● ● ● ●)考えてると思うよー?鈍感な律花ちゃんには早く手を打つべきって、赤下も思わない?』


『・・・・』


(田端くんに言われる前に、俺から…―――――)



今日こそ、()う。

絶対に、言う!


例え君が他の男を想っていたとしても。

俺は・・・自分の気持ちを伝えるんだ。


(もう二度と…――――後悔しないために。)


部活を終えて、律花の待つ教室へと急ぐ。

意気込んでいたものの、教室が近くなると心臓がうるさく鳴り出した。

徐々に歩くスピードが遅くなっていく。


(いよいよ、か…)


そう思っていた矢先、渡り廊下の前で一人の女子生徒がこちらを向いて立っていた。短めのスカート丈に、明るめに染めた肩までの髪、ピアスも両耳に二つずつ空いている。

中学の時とはだいぶ印象を変えていたが、俺は誰なのかすぐに気付いた。


「頼、」


俺をそう呼ぶのは、律花ちゃんだけだった。

なのに、この女は…―――真似事をする。

昔から(● ● ●)、そうだった。


『律花ちゃんと頼は、絶対付き合えないよ』


ついでに、思い出したくもない台詞(ことば)までフラッシュバックした。彼女は、あの時と同じ表情(かお)をして俺に微笑んだ。


(まるで――――悪夢を見ているようだ)


「・・・何の用だよ、西野」

警戒しているからか、声が低くなる。俺は目を合わせることなくそう声をかけた。本当なら、無視して通り過ぎたいところだ。だが、擦れ違い様に腕を掴まれたのだ。


「やっと会えたのに、随分冷たいなぁ。」

「俺は、もう会いたくなかった」


彼女と俺の間の温度差を、彼女は気付いていてあえてそこには触れない。いつも、そうだった。


「やっと“律花ちゃん”と再会できたんだ?同じクラスになれて良かったね。私なんて四組だもん、すごく遠くなっちゃった。折角頼と同じ学校にしたのに、ざーんねん。」

何が可笑しいのか、彼女はクスクスと笑う。


「・・・帰る」

苛立たせるその言動に堪えられなくなって、俺は乱暴に西野の手を振りほどいた。


「ねぇ、やっぱり上手くいかないんでしょ?」


すると今度は、挑発するような言葉を俺の背中に投げ掛けてくる。


「――――…は?」

苛立ちを隠せず振り向いて睨み付けると、彼女は嘲笑うかのように微笑んで言った。


「だから言ったじゃん、“付き合えないよ”って」


どこからそんな自信が沸いてくるのか。

まるで呪いのように、中学時代もずっとそう言われ続けてきた。


「私、待ってるから。いつでも連絡してね」



同じ中学だった西野は、俺にとっての“闇”だ。

二度と触れたくない“汚点”。

消してしまいたい“過去”を、彼女は共有している。


だから西野に会うと――――…負の感情に、追い込まれそうになる。

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