32@頼視点
『律花に早く告わないと先、越されるよー?』
今朝のホームルームのとき、笹野が俺にこそっと耳打ちしてふわりと微笑んだ。能天気な素振りで、イタイトコロを突いてくる。
―――“誰に”だなんて、聞くまでもない。
『・・・なんだよ、急に。』
『イベントって告白には適してるしきっと向こうも考えてると思うよー?鈍感な律花ちゃんには早く手を打つべきって、赤下も思わない?』
『・・・・』
(田端くんに言われる前に、俺から…―――――)
今日こそ、告う。
絶対に、言う!
例え君が他の男を想っていたとしても。
俺は・・・自分の気持ちを伝えるんだ。
(もう二度と…――――後悔しないために。)
部活を終えて、律花の待つ教室へと急ぐ。
意気込んでいたものの、教室が近くなると心臓がうるさく鳴り出した。
徐々に歩くスピードが遅くなっていく。
(いよいよ、か…)
そう思っていた矢先、渡り廊下の前で一人の女子生徒がこちらを向いて立っていた。短めのスカート丈に、明るめに染めた肩までの髪、ピアスも両耳に二つずつ空いている。
中学の時とはだいぶ印象を変えていたが、俺は誰なのかすぐに気付いた。
「頼、」
俺をそう呼ぶのは、律花ちゃんだけだった。
なのに、この女は…―――真似事をする。
昔から、そうだった。
『律花ちゃんと頼は、絶対付き合えないよ』
ついでに、思い出したくもない台詞までフラッシュバックした。彼女は、あの時と同じ表情をして俺に微笑んだ。
(まるで――――悪夢を見ているようだ)
「・・・何の用だよ、西野」
警戒しているからか、声が低くなる。俺は目を合わせることなくそう声をかけた。本当なら、無視して通り過ぎたいところだ。だが、擦れ違い様に腕を掴まれたのだ。
「やっと会えたのに、随分冷たいなぁ。」
「俺は、もう会いたくなかった」
彼女と俺の間の温度差を、彼女は気付いていてあえてそこには触れない。いつも、そうだった。
「やっと“律花ちゃん”と再会できたんだ?同じクラスになれて良かったね。私なんて四組だもん、すごく遠くなっちゃった。折角頼と同じ学校にしたのに、ざーんねん。」
何が可笑しいのか、彼女はクスクスと笑う。
「・・・帰る」
苛立たせるその言動に堪えられなくなって、俺は乱暴に西野の手を振りほどいた。
「ねぇ、やっぱり上手くいかないんでしょ?」
すると今度は、挑発するような言葉を俺の背中に投げ掛けてくる。
「――――…は?」
苛立ちを隠せず振り向いて睨み付けると、彼女は嘲笑うかのように微笑んで言った。
「だから言ったじゃん、“付き合えないよ”って」
どこからそんな自信が沸いてくるのか。
まるで呪いのように、中学時代もずっとそう言われ続けてきた。
「私、待ってるから。いつでも連絡してね」
同じ中学だった西野は、俺にとっての“闇”だ。
二度と触れたくない“汚点”。
消してしまいたい“過去”を、彼女は共有している。
だから西野に会うと――――…負の感情に、追い込まれそうになる。