31
記憶の奥底に沈めておいたはずの記憶。
なんで今になってそれが夢となって出てきたのか―――私はどこかで気づいていた。
『私、赤下くんと仲良くなりたいんだぁ!』
高校に入って初めて出来た友達が告った、あの言葉が――――あの時と重なったからだ。
『あ、もしかして・・・律花も?』
―――そして香織にそう聞かれた時。
(私はまた、ハッキリ言うことができなかった。)
教室までの道のりが、こんなに長いと感じたことがなかった。
ドキドキ心臓の鼓動が激しくて、歩くのも息苦しいくらいだ。
(なんでわざわざ迎えに?っていうか、手!なんでこんなナチュラルに繋いでるわけ?)
「ちょっと…「…体調、そんな悪かったのか?」
“手、離してよ”―――そう言うつもりだったのに、頼が心配そうにじっと見つめてくるから、私は言葉を切った。そして目をそらして、ぶっきらぼうに答える。
「・・・そんなことない、今教室戻ろうとしてたところだったし」
私の態度は、自分でも嫌になるほど可愛いげのないものだった。
「そか…」
それなのに、頼はホッとしたように頬を緩めるから――――。
(…ぅわっ)
不意討ちを喰らったみたいに私の心臓を貫いて、ぎゅっと締め付けられる鼓動に、勝手に赤くなっていく頬。そして―――
『赤下は律花が好きだって言ってるの!』
(ああ…もぉ。)
―――なんて最悪のタイミングで、里桜の言葉が脳裏をよぎるんだろう。
私が赤面を隠すようにそっぽを向くと、繋いでいた手はすぐに離れた。ホッと安堵した筈なのに、どこか手持ち無沙汰に感じたのは気のせいだろうか?いや、気のせいに違いない!
「なぁ…」
頼が低い声で、口を開いた。私は顔を背けたまま答える。
「なに?」
「今日、――――帰り待ってて?」
そのフレーズに、私は思わず頼の方に顔を向けてしまう。
「え・・・・?」
(それって…もしかして…。)
期待してる訳じゃない。
そう思いたいのに…―――「告白」の二文字が頭から離れない。
私が隣を歩く頼を見上げた瞬間、今度は逆に頼が私から顔を背けた。その態度が、もう…告げていた。
「律花に、話したいことがあるから」
(嘘…でしょ?)
―――ここでもまた、里桜の言葉が頭をよぎる。
『赤下は律花が好きだって言ってるの!』
(ああ、…どうしよう…)