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『律花ちゃんてさ、赤下くんと付き合ってる?』
クラスの女子にそう訊ねられた私は一瞬、言葉に詰まった。
小学六年生にもなると、女子達の間では恋話が繰り広げられるようになっていた。私はそういう話題にキャピキャピ乗っていける性格ではなく、この手の話題は苦手だった。
『え…っ?―――ううん。』
素直にそう首を振ると、クラスの女子達がホッとした表情で続けた。
『隣のクラスの西野美樹ちゃんがね、赤下くんのこと、好きなんだって。律花ちゃんたち付き合ってないなら告白してもいいよね?』
『あ、―――…うん。良いんじゃないかな…?』
ギュッと胸が詰まった感覚に戸惑いながら、私は友達から目をそらした。
うまく笑えてる自信がなかった。
『だよね!それに律花ちゃんには、もっと背も高くて、スポーツマンタイプの人が似合うと思ってたし!ほら、五組の田中くんとか。』
『田中くん…』
―――って誰だろう?
そんなことを考えていると他の子達もニコニコ笑みを浮かべながら同意する。
『うんうん!赤下くんは律花ちゃんより背も低いしね、律花ちゃんなら田中くんのがお似合いだよ!』
『そう…?』
私はそんな曖昧な返ししか出来なかった。
(私にとって、頼の存在って何なんだろう…?)
「・・・夢」
ポツリとこぼした私は、ゆっくり目を開けた。
(いつのまにか、寝てたんだ…)
一時間目の体育のあと、授業に戻りたくなくてサボってしまったのだ。
(なんであんな…夢みたんだろう…)
私は保健室のベッドからそっと降り、仕切りのカーテンを開けた。
「あ、青島さん起きた?どう?具合。」
保健医の先生が私に気づいてデスクから顔を上げ優しく微笑んだ。
「あ、…だいぶ体調も良くなったので教室戻ります」
体調が悪いと嘘を吐いてサボってしまった罪悪感から、つい目をそらしてしまう。
席替えがあるまで、頼は私の後ろで、それは私の一存で変えることはできない。
ずっと保健室に逃げているわけにもいかないのだ。
「そう。ちょうど二時限目が終わったところよ」
と、保健医の先生が言い終わるより早く、扉が勢いよく開いた。
(なんで…―――)
「律花っ、」
息を切らせながら保健室に入ってきた頼が大きく息を吐くと、私の名前を呼んだ。
―――その瞬間、ドクンと心臓が震えた気がした。
(なんでここに頼が―――?)
「あら、お迎えかしら?」
保健医の先生が意味深に微笑んで首をかしげる。
「違「そうです。…戻るぞ、律花」
私の言葉を、頼が消すようにして答えた。
「えっ!?ちょっ…っ?」
そして何故か手を引かれ、保健室から連れ出される。
(なんなの、これぇー―っ!)